百人目のハッピーエンド

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「気にするこたあねえ、ボウズ」  そんな俺を救ってくれたのは、俺達鬼のリーダーであった男だ。けして美しい見目ではない。大柄で、毛むくじゃらで――されど豪快で懐の深い彼は。自分も差別や偏見に苦しんできた身だというのに、同性が好きで悩んでいるという俺の話をきちんと受け止め、頭を撫でて慰めてくれたのである。 「人が人を好きになるのに、理由なんざいるもんか。たまたま好きになるのが同性だったってだけだろ?それの何がいけないってんだ。男と女でくっついても、子供を作るとは限らない。非生産的だ?そんなこたあない。愛し合えば、そこには必ず誰かの未来に役立つ何かが生まれるってなもんだ。意味がないことなんざないんだよ。お前はお前だ。だからお前が、お前自身をちゃんと認めてやるんだ」  姿は醜くても、鬼達はみんな心が綺麗な者ばかりだった。やがて一人が島の土地から黄金を発掘した時は、誰もが大喜びをし富を分けあった。誰ひとり、宝を独り占めしようなどとはしなかったのである。  人は、外見ではない。どれほど美しくても、心が腐っている者は山ほどいる。同時に、どれほど醜いように見えても、心に宝石を抱えた者も確かに存在するのだ。俺は悟らざるをえなかった。かつての自分の眼が、いかに曇っていたのかということを。 ――でも、この物語には……ハッピーエンドなんてものは、ないんだ。  だって俺は前世で知ってしまっている。此処が桃太郎の世界だということを。そして桃太郎が、近い未来俺達を襲って宝を奪いに来るということを。  嫌な予感は的中する。  俺達の島にやってきた桃太郎とお供達は、俺達鬼を最初から悪だと決めつけていた。島にある宝は、あの漁村の人々から奪ったものに違いないと思い込んでいたのである。 ――村の連中、嘘をつきやがったんだ!これは俺達の宝だ、俺達の仲間が一生懸命掘り当てて分けてくれた宝物なのに!  子供の頃は、当たり前のように正義の味方だと信じていた桃太郎。  本当は、どうであったのかは正直わからない。わからないということに、今更俺は気づくのだ。  人は時に思い込み、物語を一面だけで判断して全体を決め付ける。そうやって、人の外見だけで差別をするように。  本当の真実は。時に、愛がなければ――見えない。
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