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一体何度繰り返しただろう。
俺の絶望的な“鬼”の人生も、そろそろ百度目になろうかとしている。
俺は悔しくて悔しくて、同時に前世の己の所業が呪わしくて忌まわしくてならなかった。俺達の話を聞かず、外見だけで差別し、村人達の言葉ばかりを盲信して俺達を当然のように“皆殺し”にする桃太郎達。そして、それに罪悪感を抱くどころか、正義を下しただけだと誇らしげに笑う彼ら。
そこにいるのは、かつての己だと気づいていた。かつて俺が、他の誰かにしてきた所業が今、次の人生の俺にすべて降りかかってきているのである。
――カミサマ、カミサマ。俺が愚かだったというのなら、もうそれでいいです。俺の罪だというのなら、永遠に懺悔を続けます。だから。
俺はいつしか、祈るようになっていた。
――どうかもう、俺だけに。……優しい大将や、鬼のみんなのことを苦しめるのは……もう、やめてください。
生まれて初めて、自分のことよりも誰かの幸せを願うようになった時。島に、百人目の桃太郎が上陸した。彼は勢いよく飛び出そうとする犬と猿と雉を制して一歩前に進み出て、言ったのである。
「鬼の皆さん。僕は、貴方がたが、村の人々から宝物を奪って悪さをしていると聞きました。……それは、本当のことですか?」
今まで。
今までの桃太郎は、ただの一度も自分たちの話を聞こうとはしなかった。そんなことはしていないと叫ぶ鬼の大将を、桃太郎は問答無用と切り捨てるか、犬たちに始末を命じる有様。酷い場合は、男達をすべて切り捨てたあとで、鬼の女達を好き勝手にする時さえあった。
でも、その桃太郎は違っていた。大将が何かを言うよりも前に、俺は前に飛び出して桃太郎に縋っていた。
「お願いだ、助けてくれ!……この人達は何も悪いことなんかしてないんだ。みんな、鬼のような姿をしているだけの人間だ。本当は誰より優しい心を持っているのに、その姿だけで差別されてきた人達なんだ。宝物を他の人たちから奪うなんてしていない。あの宝は、この島で発掘できたものを、みんなで分けあっただけなんだ……!」
死んでもいいと、初めて思った。
俺が死んでみんなが助かるのなら、それでもいいと。
「頼む、助けて……俺はどうなってもいいから、みんなを助けてください、お願いします、桃太郎さん……!!」
その後、桃太郎が俺になんて言ったか――実はあまりよく、覚えていないのだ。
ただ彼に縋って、泣きじゃくっていたことだけは覚えている。――そんなみっともない俺の頭を撫でてくれた、優しい手があったことも。
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