残念女騎士と星喰いパンツ

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 ーーーパンツ。  下着、肌着、ショーツ、色々呼び名はあるが下半身に直接身に付ける衣服を意味する。  主な用途は防寒及び陰部の汚れ防止で、覆う面積は臀部から前面にかけてのごく少ない、小さな下着だ。  いや、んなこたぁどうでもいい。  何の因果か解らんが、俺はパンツになってしまったらしい。  …いや待て、意味解らん。  擬態とかならともかく、パンツになるとかどういう状況だ?  しかも、以前の力は使えない癖に意識だけははっきりしてやがる。  …生きてるより質が悪リィじゃねぇか。  しかし、パンツに自殺が出来る訳もなく、俺は下等生物の女のパンツとして役割を果たさにゃならなくなった。  だが、俺も無意味にパンツやってた訳じゃない。  女に履かれているうちに、色々なことが解ってきた。  想像通り、ここの文明レベルは高くない。  機械工業は発達してはおらず、石造りか木製の建築物が主となっている。  代わりに、ここの生物は『魔力』なる精神エネルギーをもっており、様々な用途に用いている。  正直、これは意外だった。  この『魔力』はかなりのエネルギーを秘めている。何も無いところから炎を出したり、物を浮かせたり出来る。  これさえ吸収出来れば、俺は復活出来るかもしれない。  だが、幾つか問題がある。  まず第一に、吸収する術がないということ。  パンツだから仕方ねぇんだが、身体の使い方がよく解らん。  そして、最大の問題は俺の持ち主にあった。  持ち主の名はアストレア。  職業は騎士。どっかの国に仕えているらしい。  こいつがどうにも厄介だ。  まず第一に弱い。とにかく弱い。  人並み以上に鍛えちゃいるが全く身になっていないらしく、模擬戦をやらせりゃ全戦全敗。  任務に出りゃボロボロで帰ってくる始末。  おまけに、こいつには『魔力』がない。  どうやら『魔力』って奴は才能に左右されるそうで、元の素質が良ければ使える力も強くなる。  だが、こいつにはそれが全くない。  ここの生物はガキでも念じりゃ指先から火の一つぐらいは出せるのに、こいつはそれすらできない。  それで出世欲だけは人並みにあるってんだから始末におえねぇ。  後、こいつは壊滅的にだらしない。  パンツは洗わねーで履くわ、生乾きにするわ、シミはつけるわ、ぐしゃぐしゃにするわ…下着に対する感謝がねーのか?  餌にもならねぇぞ、こんな残念なの。  で、俺はそんな下等生物のパンツときている。  最悪だった。  自由に星を喰ってきた俺にとって、これ以上の屈辱はねぇ。  そんな、屈辱が続いたある日のことだった。  アストレアがいる国の近くで怪物が出没したらしい。  怪物は『オーク』とか『オーガ』とかいう原始生命体で、狂暴な性質を持っていて人を襲うと言う。  取り分け異種族の雌に対しても生殖能力を持ち、犯して孕ましては増え、アホみたいに増殖するのだとか。  そんなのに暴れられちゃ敵わん、と言うことで、国から討伐部隊が組まれることになった。  …のだが、誰も立候補しない。  そりゃ当たり前だ。  オークとやらは人間より強く、魔力を使っても対抗できるか怪しいらしい。  討伐なんざ、死にに行くようなもんだ。  好き好んで死にたい生物はいないでしょ……と思ってたんだが。 「はい!わたしやります!やらせて下さい!」  挙手した大バカ野郎がいた。  俺の持ち(アストレア)だ。 「わたしが見事オークどもを駆逐し、国に平和を取り戻してみせます!」  なんて言っちゃあいるが、単なるおためごかしだ。  普段パッとしねぇからここらで成果を上げて出世しようってハラなんだろうが、上手くいくもんかね?  しかし、他に誰もいないのもあってか討伐はアストレア一人に決まり、バカなこいつは意気揚々とオークの出る集落へ出発した。  勿論、俺を履いて。
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