2・吹奏楽部

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 始業式が終わり、約束通り大谷君は音楽室へ案内してくれた。  数時間だけの印象だけど、きっとお兄ちゃんなんだな。  面倒見がいいんだもん。  そんな大谷君が行ってしまい少し心細くなってしまう。  楽器や譜面台を用意するガヤガヤとした音楽室を遠目に感じることしか出来ない。  この音楽室はまだ日常には程遠くて気後れしちゃう。 「竹内さん?」    顧問の飯野先生が声をかけてくれた。  夏休み中、手続きに来た時に入部届は出しておいたから気にかけてくれてたのかな。 「は、はい!」 「今の時期はちょっとバタバタしててね。今日はとりあえず部の雰囲気を見ててもらう感じで」  私は飯野先生から簡単に部員に紹介された後、邪魔にならないようすみっこに座った。  九月は吹奏楽コンクールの本選やオータムコンサート、文化祭と何かと忙しい。  どこの吹奏楽部も一緒だよね。  新しい学校でいきなりこれらに参加できることはないだろうと覚悟はしてる。  私はレギュラー争いやパート争いには重きを置いてない。  ただみんなで一体となって音を合わせ、一つの作品を奏でることが楽しくてたまらない。  それを毎日できることが安心できる私の日常。  各パートのチューニングが終わり、夏休みの間から吹奏楽コンクール本選に向けて練習している楽曲の演奏準備が整った。  飯野先生がタクトをかざし、始まりの合図を告げる空気を切る気配を感じる。  そして一斉に鳴り響く音色たち。  この感覚がたまらない。  ゾワゾワと鳥肌が立つ。  あぁ! 私もこの鮮やかな世界に混ざりたい!  見たところ部員は四十人いるかいないか。  なら三十人編成のBⅡ部門。  三年生は秋には引退だから、そうなったらギリギリかもしれない。  争いたくはないけどレギュラーの可能性は結構アリかもと胸が高鳴った。  始業式ということもあって練習は早々(はやばや)と終わり、飯野先生に呼ばれようやくゆっくりと話が始まる。 「竹内さんはフルートやってきたの?」  飯野先生は私が持っているフルートケースを見て言う。 「はい」 「自分の持ってるんだね」 「はい」  自分のというか正確にはお母さんの。  お母さんも学生時代は吹奏楽部で、卒業後も地域の楽団に入ってボランティアで演奏会とかに出てた。  でも関節リウマチを患い吹けなくなってしまったので私に託してくれたのだ。  飯野先生は首をかしげ腕を組んで難しそうな顔をする。 「うちはさ、フルートの定員埋まってるんだよな」  確かに今もフルートは三人で演奏してた。  三十人編成なら通常は二人の場合が多いはずだけど、だからといって決して定員オーバーという人数じゃないと思う。 「トロンボーンならもう一人くらいいてもいいんじゃないの?」  やけに煌びやかな女子がいい香りと共に話に入って来た。
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