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ちょっと意地悪な顔で話しかけてきたのはマリンバ君。
男子に話しかけられるってだけで意味もなく緊張し、目を丸くしてる私にマリンバ君はすみません自己紹介まだでしたね、と愛想よく笑顔を見せる。
「俺パーカッションの森岡諒、一年です。よろしく架帆先輩!」
い、いきなり下の名前呼び!?
男子に下の名前で呼ばれたことなんてないから、またまた変にドキドキしちゃう。
後輩のくせにからかってくれちゃって、なら私も!
「りょ、諒君、大谷君のこと知ってるの?」
「オカルト同好会は有名ですからね。いつも何かやらかして怒られてますよ。でも結局困りごと解決しちゃうみたいで。もう一人の可愛い方の情報収集能力ハンパないらしいです」
諒君は私が下の名前で呼んだことなんか何とも思っていない様子で、要らない情報を楽しそうに話してくれる。
初めて男子を下の名前で呼んだ私の胸はバクバクしてるっていうのに。
なんか悔しい。
「それに大谷さんは霊感があるって噂で、そういうの信じてる人からは崇拝されてるんですよ」
霊感……。
ひ、否定はしないけどね……。
ニシシと笑う諒君からはオカルト同好会をちょっとバカにしてる感じが受け取れる。
私も似たようなもんだけど。
でも大谷君はいい人なんだよ。
「あ、あのさ、片付け、何か私にも手伝えないかな?」
「マジですか! 優し~!」
何か眩しい。
眩しいぞ、諒君の笑顔。
私より少しちっちゃくて線も細いから高校生には見えない。
でも整った顔立ちに奥まった二重の精悍な目元は少しだけ大人びて見える。
でもでも口を大きく開けて白い歯も眩しく笑う姿がやっぱり子供っぽくて可愛い。
じゃあ、と野村先輩に指示されて片付けを手伝いながら、何気なく窓の外を見ると運動部が一生懸命練習してる姿が見えた。
三階にある音楽室からはグラウンドが一望できる。
野球部にサッカー部、陸上部とテニス部。
ふと見るとグラウンドの端、丁度音楽室の正面辺りにいる男子がこっちを見上げてるのが目についた。
じっとこっちを見てるような気がして、どうしたんだろうと私もつられてじっと見てしまう。
するとその男子が笑った。
私を見て、笑った。
この瞬間なにかが私の中を駆け抜けた。
何だろう?
激しいようで、でも静かに柔らかにジンジンと身体中が痺れてるような。
何かに包み込まれているような。
心は激しく何かを訴えているのに頭がボワッとしてついて行かない。
「え!? どうしたんですか? 何で泣いてるんですか?」
遠くに聞こえる諒君の声。
泣いてる?
誰が?
え?
私?
何で?
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