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「今日、っていうか基本火~木は個人練習で月金が合奏です。個人練習は大会とかない時は休んでも怒られはしません。今はコンクール前なんで楽器ごとに分かれて日々パート練習ですね。そういえば何やるか決めたんですか?」
「うん。やっぱりフルートかなって」
甘い香り。
「オーボエなら即レギュラーってアドバイスもらってたじゃない」
加藤部長、今日もバッチリなんですね。
昨日は緊張であんまりちゃんと見られなかったけど、部長をはじめフルートの三人はみんな凄くオシャレで雑誌の中から飛び出して来たみたい。
前の学校は結構厳しくて茶髪はありえないし、メイクなんてもっての外。
私はその時のままだから彼女たちからしたら超田舎者なんだろうな。
だとしても高校生の間はメイクとか非日常で構わないや。
「フルート買ってもらえるくらいなんだからオーボエも買ってもらえば?」
やっぱり威圧感あるな、部長。
自分の楽器持ってるとあんまり好意的じゃなく見られちゃうってのは御多分に漏れずって感じかな。
「あの、私フルートが好きなんです。レギュラーにはなれなくてもいいのでフルートをやらせてもらいたいんですが……」
部長だけじゃなく他の二人の表情も強張った。
どうしよう。
そんなにダメなのかな?
私がイケてないから?
マイフルート持ってるから?
でも、でも私にとっては吹奏楽をやることよりもフルートをやってることの方に意味があるから。
これだけは譲れない。
「自分のがあるんだものね。いいんじゃない」
言葉とは真逆の表情で部長はクルリと身をひるがえした。
他の二人も同じようにして歩き出す。
私はそれを追いかける。
だって同じフルートだもん。
一緒に練習するんだよね?
部長が甘い香りを振りまいてこちらに向く。
「森岡、訪問の譜面渡してあげて」
「はい!」
そして部長はまたクルリと香りを漂わせて行ってしまった。
ホウモン?
諒君は譜面の入ったカゴをガサゴソとして私の方にやって来る。
「余裕のある時期に老人ホームとかで訪問コンサートするんですよ。懐メロ、ムード歌謡っていうのかな? そんなのがメインなんです。これらは定番だから覚えたらいつでも参加できますよ。訪問は全員じゃなくて行きたい人優先なんで」
「そうなんだ」
諒君の顔がスッと近づく。
何!?
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