3・新しい日常

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 頭の中でボン! て音が鳴った。  ダメだ。  とりあえず、とりあえず片付けをしよう!  私は廊下に残されたみんなの譜面台を運ぶ。  一個なら平気だけど沢山になると結構重たい。  音楽室の中のも全部だから案外大変だ。  中には自分で片付けてくれる人もいるけどね。  予想通りフルート三姉妹の姿はすでにない。  ようやく音楽室の中がスッキリして私は惹きつけられるように窓辺に向かう。  今日も、いた……!   それだけで私の心はぎこちないビートを奏で出す。  私は昨日と同じようにその運動部男子を見つめ続けた。  一人でグラウンドの外周を走ってる。  どうしてだか目が離せない。  そして音楽室の傍に来た彼は顔を上げる。  私を見て、今日も微笑んでくれた……!  何だろう。  この感覚。  身体中が、心がジンジンと静かに痺れているような。  それでいてなにか優しいものに包まれているような。  でもちょっと息苦しいような。  そしてトクトクといつもよりハッキリ感じる胸の鼓動。  遠くて顔なんかちゃんと見えないのに、分かる。  私を見た。  笑った。  どうしよう。  昨日程じゃないけど泣きそう。  込み上げるこれって嬉しさ? 切なさ? 「架帆先輩、大丈夫ですか?」 「え?」 「昨日もここで泣いてましたけど、ここ泣きスポット?」  本当だ。  昨日と同じ場所からグラウンドを見てたみたい。  そして泣きそうじゃなくて、もう泣いていた。 「な、何でもないよ。目にゴミが」  ベタな言い訳が全部終わらないうちに手をつかまれた。  え!  そのまま引っ張られて音楽室を出る。 「か、鞄!」 「持ってますよ。あのカフェのフルーツタルト人気だから少しでも早く行かないと」  嘘でしょ!  何この状況!?  まず男子に手を握られるなんて、それだけで非常事態。  なのに、そのまま強引に引っ張られて一緒に走るなんてドラマの中の出来事だよ!
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