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大谷と呼ばれた男子は不愛想に返事をすると一瞬私を見て顔を背けた。
肩が揺れている。
笑ってるんだね……。
ま、ヘタこいた時は無反応より笑ってもらった方が気が楽だからいいけど。
「竹内さんの席はあの大谷の横な」
「は、はい」
私は変な汗をかきつつみんなに愛嬌を振りまきながら大谷君の横に辿り着き、なんとか一個目の日常を手に入れた。
自分の席。
とりあえずここに座ってればいつもの日常になるのだ。
先生は必要な連絡事項だけをテキパキと伝えるとじゃあな、と扉に向かう。
ホームルームの時間はまだあるのに。
でもみんなは慣れた感じでバイバーイなんて手を振ってる。
「くれぐれも宿題写しあったりすんなよ。自習ってそういう時間じゃないから」
先生がそう言って教室を出て行くとみんな一斉に宿題を写しだした。
「行こうか」
低い大谷君の声。宿題はいいのかな?
大谷君がカタンと席を立つ。
大きい。
座ってる私が見上げるのは当然だけど絶対的に大きい。
「は、はい」
ほらね。
立ち上がっても見上げてしまう。
私は女子としては比較的背が高い方で、前の学校では見上げるなんて動作はめったになかったから新鮮。
少しダルそうに歩く大谷君の後ろを私はぽてぽてとついて行く。
全体的には細身でシュッとした印象。
短い黒髪はスタイリッシュにセットされてる。
男子の流行りのファッションなんて分からないけど、テレビで見る都会のオシャレな男子そのものだ。
それに、細身なのになんて大きな背中……。
先生の背中が大きかったのは大人だから当然だと思ったけど、高二にもなると男子の背中も大きいんだな、なんて妙な発見に照れくさくなっちゃうよ。
「それ、前の学校の?」
「えっ?」
背中をじっと見てた私はイケナイところを見つかったみたいにワタワタしてしまう。
大谷君は前を向いたまま言った。
「制服」
そう。
この学校には制服がない。
でも私は卒業まで制服で貫き通す予定だ。
だって私にとって学校は制服で過ごす場所だから。
朝起きたら制服に着替える。
これが私の日常だもん。
「うん」
「制服ある方がいいよな。毎日何着てくか考えるの面倒くさいし」
「そ、そうだよね」
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