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「私、一緒の部屋になったのが天璃さんでよかったです」
「何だい急に?……でもまぁ、皆が皆、俺みたいに思ってるわけじゃないっていうのもまた、事実なんだよねぇ……」
「ですよねぇ…………」
最後の一言で、柴炎は再びどんよりと曇り顔になった。
(妬まれてるんだろうなぁ)
ひしひしと四方から突き刺さる視線が痛い。
ここへ来る時、入り口に立っていた警備兵に名を確認されたところ、「お前たちで最後だ」と言われたので、ここに此度の科挙及第者が全員揃っているということになる。
数にして六十余名。会試だけでも数万人、郷試も含めばもっと多くの受験者のなかでも、選び抜かれた秀才たちがこの場にいる。
しかも、そのほとんどが貴族層だ。
科挙を受けるとなれば、教材や学塾にかかる費用で家計に多大なる負担がかかる。だから受験者のほとんどは貴族や一部の裕福な農民・商人層。
誰でも受けられるとはいえ、暮らしていくだけで精一杯の一般市民には、学費に費やすには経済的にも時間的にも余裕がなかったのである。
ただ柴炎の場合は少し特殊なので、その点で困ることは無かったが。むしろ教材に関しては恵まれていたと思う。
「面倒なことにならなきゃいいけど」
「本当ですね。でも、かかってくるなら受けて立ちますよ。せっかくーーやっと官吏になれたのに、出る杭になって大人しく打たれてたまるもんですか!かかってこいです」
「ははっ、いい度胸だ」
からりと笑う天璃に、柴炎も意気込んで笑み返した。
ーーが、その直後である。
「柴炎さぁ〜〜んっ!!」
「ぐえっ」
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