北州の少年

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   ◇  榮華国は、大きく五つの州に分けられる。一つは国の中心、王都のある央州。周りを取り囲むようにして東州、西州、南州、北州。  そして、そのそれぞれを(よう)家、汪家、星家、(こう)家が治めており、俗に四家をまとめて四門と呼ぶ。  かつて央州を含め、五州はそれぞれ小さな国として独立していたが、初代榮華国国王・來劉庵(りゅうあん)がひとつに統一し、以来四門は來家に仕えるという形で土地を治めてきた。いわば、筋金入りの超・大貴族。  だから柴炎はぎょっとした。  その大貴族、汪家直系のお坊っちゃんを間違いとはいえ殴ってしまったとあっては、何をされても文句は言えまい。しかもよりによって顔ーーそれもかなり美形のーーだ。一瞬、自らの運命の終わりを悟ったほどである。  だが、天璃は思ったより寛容だった。部屋の厠掃除を十日間ずっと柴炎がやるという条件で、今回のことは全て水に流してくれたのだった。 「な、なんとか間に合ったみたいですね……っ」 「うん。そうだね」  進士式が執り行われる王宮の一角・桜華殿(おうかでん)には、すでに多くの新進士たちが集まっていた。 「なんで、天璃さんだけ、そんなに余裕そう、なんですか…………?」  はぁはぁと息を切らす柴炎とは対照的に、天璃は息ひとつ乱れぬ涼しげな顔をしている。全力疾走してきたのになんで……!?と驚く柴炎に返ってきたのは、「鍛えてるから、俺は」という得意げな言葉だった。ちょっと悔しい。  けれど、それはそうとして。  一度大きく息を吸って呼吸を整えると、柴炎は目線だけでぐるりと周囲を一瞥する。それから、天璃の影に隠れるようにして、居心地悪そうに首を竦めた。 「……なんだかすごく視線を感じんですが」  小声で呟くと、当然のように頷かれる。 「そりゃあそうだろう。なんたって君は『四門直系を抜いて状元及第した謎の平民!なんと十八歳!?』なんだからね」 「うわぁ、やめてくださいよー……」  というか何だ、そのやけに芝居掛かった口調は。
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