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「あのー、実は結構根に持ってます?」
何が、とは言わないけれど。
「べつに?根に持ってはいないよ」
「よかった……」
「もちろん悔しい気持ちはあるけどね」
柴炎は複雑そうな表情を浮かべる。
それに対して天璃は飄々と、自分より頭一つつ分ほど下にあるつむじを見下ろして、くすりと笑った。
「俺も汪家直系として周りに期待されてたし、正直、状元及第する自信もあったし。ほら、俺って優秀だろう?……まぁその分、皆をがっかりさせちゃったかもしれないけど。でも、だからと言ってべつに、君に対してどうこうっていう気持ちはないよ。君が一生懸命勉強してきたのも近くで見てたしね」
天璃と柴炎が初めて出会ったのは、会試を受けるために王都へ来たときだった。用意された宿舎でたまたま同部屋になり、それから何となく一緒に行動するようになったのだ。
だから、天璃は柴炎が必死に勉強している姿を一番近くで見てきたし、その逆も然り。
「負けたのは悔しいけど、君に及ばなかったのは俺の力不足。君の状元及第も君の実力。それをぐちぐち言うのはお門違いって話さ」
「天璃さん……」
それを聞くと、柴炎は嬉しそうに、にこにこと微笑んだ。そして改めてこの人を良いと思った。
初めは汪家の直系兄弟の末っ子と知ってどんなやつだろうと思っていたが、天璃は思いの外まともな人物で、威張った感じもなく、側にいて気兼ねしない。むしろお互い浅過ぎず深過ぎずの距離感が、ちょうど良いとさえ感じている。
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