北州の少年

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   ◇  今日は記念すべき初出仕の日。  部署が別の天璃とは途中で別れ、期待と少しの不安を抱えながら吏部に向かった柴炎は、来て早々帰りたくなった。  理由は他でもない。 「皆、今日は来てくれてありがとう。それに、状元の李柴炎くんに、探花の星彗斗くん!逸材と名高い二人がうちを選んでくれるなんて嬉しいよ」  新人たちの面倒を見てくれるらしい上官の言葉に、柴炎は曖昧に頷くことしかできない。  ちら、と目線を斜め上にずらしてみると、正真正銘、星彗斗の姿がそこにある。  一見いつも通りの澄まし顔をしているが、なんとなく怖いので柴炎はすぐに目線を正面に戻した。  直接言葉にしているわけではないけれど、「なんだ。貴様も吏部か……」という思いが全身からひしひしと伝わってくるのは気のせいではない気がする。 「ーーそれじゃあ簡単に説明するね。すでに知ってると思うけど、吏部では主に人事を取り扱います。もっと上になると、各署に潜入して誰々がこういうことしてるーとか調査したり、官吏たちの不満や要望を聞き取り調査したりとかあるんだけど、君たちは新人だから、今日は簡単な書類整理からお願いしようかな」  そう言って和かに微笑むその人に、柴炎は心の中でほっとする。優しそうな人が上司で良かった、と。 「えーと、来てくれたのが九人だから……」 「(そん)侍郎!こちら追加分の資料ですっ!」 「おー。了解」  どさっ、と鈍い音を立てて側の机の上に置かれたのは、大量の書類の束。もともと書類の山だったのが、一層高く積まさって、もはや溢れんばかりである。  書類を運んできた官吏は、そのまませかせかと足早に仕事へ戻って行く。  星彗斗に気を取られていて今まで気づかなかったが、ふと周りを見てみると、どの官吏も皆険しい顔で、手と足と頭を休めることなく動かし続けている。  嫌な予感がした。 「ここにある書類、皆で手分けして、部署別に分かりやすくまとめて欲しいんだ。できれば今日中に。お願いできる?」  優しい口調だが、「できればじゃねーなんとしても今日中に終わらせろよ」という笑顔の下に隠された暗黙の意志を汲み取ったのは、柴炎だけではなかった。 「は、はい…………」  その証拠に、返事を絞り出した皆の顔が引き攣っている。
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