北州の少年

25/43
162人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
 一日中ほぼ座りっぱなしで同じ体勢だったため、肩とか首とか足とか、身体のあちこちが痛む。  柴炎はぐっと伸びをして、ひと息つきながら、込み上げてくる欠伸を噛み殺した。  初めのうちは軽口を叩きながら作業をしていたものの、今となっては皆喋る気力もなくなって、よくわからない唸り声や「疲れた〜」など時々弱音を溢すぐらいで、室内にはどんよりと重たい空気が立ち込めている。  書類の山はだいぶ小さくなったが、全部片付くにはもう少しかかりそうだ。 「ーー失礼いたします」  そのときだった。深刻そうな顔と声が、扉を開けて入ってきたのは。 「沖文(ちゅうぶん)……?どうした?」 「彗斗様。急ぎお伝えしたいことが」  息を切らしつつ、やや口早にそう言うと、沖文と呼ばれた星家の使者と見られる男は、彗斗のもとへ行くと、その耳元で何事かを囁く。  それを聞くにつれ、彗斗の表情はだんだんと険しいものになってゆく。  どうしたんだろう、と思いながら様子を見ていると、聞き終えた後も難しい顔で黙り込んでしまう彗斗。 「いかがなさいますか?」 「…………すまないが、今は手が離せない」  沖文は物言いたげな顔で口を開きかけるが、けれどぐっと言葉を飲み込んで、歯がゆそうに頷く。 「わかりました。では、そのようにお伝え致します」 「ああ。後日、ひと段落ついたらそちらへ向かう、と」 「承知致しました」  使者は一礼したのち、失礼を述べて部屋を後にしようとするーーのを、柴炎は思わず呼び止めた。 「ちょっと待ってください」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!