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言葉の意味を理解するのに数拍。
柴炎はいろいろと悟って振り向くと、頭の後ろで手を組み、挑発的に片目を閉じて、にやりと口元を歪める青年と視線が交差する。
「……裴朱敬さん?」
「気安く俺の名を呼ぶんじゃねェ……平民風情が」
〝平民風情が〟
その言葉がもうすでに、全てを物語っていた。
裴朱敬。星家の家系に属する名門・裴家出身の男。
先程までは普通に笑っていたし、敵意といったものは別段感じなかった。おそらく星本家の子息の手前、上辺を繕っていたのだろう。
朱敬だけではない。ちらりと周りを見渡すと、他の者たちも同様、柴炎を非難がましい目付きで見上げている。
(……そういうこと)
よくよく考えれば、彼らの殆どが貴族家出身だった。柴炎を気に食わないのも当然。いつかは何かしらくるだろうと覚悟していたけれど、思ったよりも早かった。
それだけだ。
「だいたい、ナニが状元及第だよ。笑わせんな。みィんな言ってるぜ?どーせ不正でもしたんだろってな」
言いながら、威圧的に近づいてくる朱敬。
柴炎は拳をぎゅっと握りしめながらも、一歩も引かず、ただその攻撃的な目をじっと見つめ、正面から見返した。
「不正なんてしていません」
「賄賂か?いや、平民の懐からそんな金が出るわけねェ」
目の前に立った朱敬は、柴炎の顎をぐっと掴み、上向かせる。
「カラダでも使ったのか?お前、男のくせに女みてェな面してるもんな。物好きな好色野郎が喜びそうだ」
……汚らわしい。
そう吐き捨てるように言うと、朱敬は乱暴に手を離す。
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