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(女顔なのは女なんだから当然でしょーが)
柴炎は込み上がる悔しさをぐっと堪え、努めて冷静に彼を見つめ返した。
「言いたいことはそれだけですか」
「あ?」
「要は私のことが気に食わないんですね?平民風情に名門貴族の子息である自分が負けたから」
「ンだとてめェ……もっぺん言ってみろ!」
胸ぐらに掴みかかられそうになる前に、その腕をぐっと掴み、爪を立てる。
「ってェ」
「いたっ」
振り解かれるときに手首がぐいっとなって、柴炎は小さく悲鳴を上げる。たぶんちょっと捻った。
「手伝いたくないならべつにいいです。あとは私がやりますので、貴方はその辺で朝まで寝ていてくださっても結構ですよ」
畳み掛けに微笑んでみせると、朱敬はチッと盛大な舌打ちをひとつして、がしがしと頭を掻いた。
「あーあーソウデスカ。……お前ら聞いたか?後の仕事はこいつが一人で片付けてくれるってよ」
そう周りをぐるりと見回して言うと、他の者たちも「それは有難いな」などと意地悪く嗤って賛同する。主に名のある貴族たち。
おろおろしている者も何人かいるが、彼らの手前、何も言えずに縮こまるしかないのだ。
恐らくそれほど身分も高くない者たちだろう。
責めるつもりはない。誰だって、面倒事は避けたいから。
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