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「ーーそんじゃあお言葉に甘えて、俺たちは一足先に仮眠室で寝かせてもらうことにするぜ。後はヨロシクな」
「お任せください」
いやらしい笑い声を残し、朱敬を筆頭にぞろぞろ部屋を出て行く一同を見送ると、柴炎は盛大な溜息を吐き出した。
(……つかれる)
顔を手で覆うと、前髪がくしゃっとなって乱れた。
貴族だとか、平民だとか、そんなのは柴炎にとってはどうでもいいことだった。
出世争いなどどうでもいい。王城に出入りできる立場にあれば。
それよりも、自分にはやらなければならないことが他にあるのに。
ーーでも、今は。
柴炎は指の間から視線を流し、机の上に積まさった書類の山を見下ろす。
つい啖呵を切って、一人でやるなんて言ってしまったけれど。
「……終わるかなぁ…………」
◇
明け方、書類はなんとか片付いた。
しかし終わったと同時に力尽きて眠ってしまったようで、目を覚ました時、すでに太陽は上りきって、窓から眩しい光が差し込んでいた。
出仕時刻は過ぎている。
柴炎が飛び起きて周りを見回すと、他の新進士たちの姿も案の定無かったが、机の上に整理して纏めておいた書類まで消えていた。
嫌な予感を感じつつも急いで身支度を整え、室を出て吏部へ向かう。
息を切らしながら到着すると、冷たい目をした孫悠渓吏部侍郎に叱責を喰らってしまった。
けれど、その内容というのもこうだ。
「仕事を他の者たちに任せて一人寝てしまったそうじゃないか。挙句、自分は遅刻までするなんて、官吏になる者として感心しないな」ーーと。
奥にいた裴朱敬と目が合うと、彼はにやりと口角を吊り上げた。
それだけで全てを察した柴炎は、舌打ちしそうになったのを噛み殺して、苦々しく掌を握りしめるのだった。
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