北州の少年

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   ◇ 「…………随分やつれたね、君」  うわ、という第一声の後、引きつった笑みでそう言うのは、今はもう懐かしの汪天璃だった。  といっても最後に顔を合わせてからほんの五日ぶりだが、毎日が忙しすぎて、なんだか随分久しぶりに会った気がする。 「ですよねー」 「うん。隈ひどいし肌荒れてるし、髪もぼさぼさでお岩さんみたいになってる」 「〝お岩さん〟?」 「東の島国で有名な一種の幽霊だよ。礼部の先輩官吏が話してた」 「うふふ、幽霊ですかぁ。辛辣ですね」  曰く、幽霊みたいな顔でへらへらと笑う柴炎に、天璃は若干引いた表情を隠さない。  ここは宮廷の回廊。  お互い書簡を運ぶ最中、ばったり出会したのだ。 「この時期の吏部は鬼のように忙しいって聞くけど、本当だったんだね……」 「そうなんです。見苦しくてすみません……毎日身なりを整えてる暇も惜しくて」  仕官し始めてから五日目。  与えられる仕事量は例の如く、隙を狙っては裴朱敬や彼を取り巻く進士たちが柴炎の邪魔をしようと手を回してくる。  やることが終わったら終わったで、別途の用で書庫に入り浸っては睡眠時間を削り、この数日間、柴炎はほぼ寝ていないと言っても過言ではなかった。 「でも君、あれだろ?星家の四男とは上手くいってるらしいじゃないか」
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