電車のお隣さん

1/1
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

電車のお隣さん

隣のカップルがいちゃついている。 別にひがんでなんかいない。 これは本当だ。 私は先週発売されたばかりの好きな作家の新刊を読みながら隣のカップルの会話を聞いている。本当は聞きたくなんかないんだけど、聞こえてしまうのだ。もう少し小さな声で話してくれればいいのに。 「今日も可愛いね」 「えー、本当?」 「ニコニコ笑顔が可愛い」 「他には?」 まさかの彼女、お替り要求。 「声も可愛い」 「うんうん」 「丸いほっぺも可愛い」 「ひどい、気にしているのに」 「ごめんごめん」 ひどいと言いながら、彼女の声は甘い。そして彼もごめんと謝りながらくすくす笑いをやめない。 自分では変わっていないつもりでも、大人になったなぁ・・・と思う瞬間がある。 例えば隣で若いカップルが楽しそうに笑っていて、でもこのカップルあと5年も付き合わないでしょとか、恋愛感情って3ヶ月しかもたないんだっけ?とか余計なことを考えてしまう時だ。 そして。 「算数ブロックに名前書いた?」 「ママにシール貼ってもらうの、うさぎちゃんマーク入りの」 「いいなぁ。今度見せてね」 ランドセルに黄色い帽子という「1年生スタイル」のカップルがいちゃついているのを見ながら、最近の小学1年生はすごいなぁ・・・とまた本に視線を落とした。 別にひがんでなんかいない。 ただ、時代の流れを感じて内心動揺しているだけだ。それだけだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!