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14話
「ズオオンンンンンン」
という音がして、ダイベンガーのコックピット内部が振動で揺れている。たぶん、本当にダイベンガーが歩き出したのだろう。僕はエメドラちゃんの左右の足を交互に前後させている。その度にコックピットの中が少し傾いて振動が起こるのだ。
「いいぞ真っ直ぐ歩いてる、便器ちゃん上手いじゃ無いか」
ブラカスちゃんが褒めてくれた。今、ブラカスちゃんは僕に肩車される格好になって、エメドラちゃんの上半身を担当している。
そしてもう一人「メフィスト・フェレス16世」という自称「魔界の貴族」で、ダイベンガーの中に住んでいた奇妙なカエルがいて、エメドラちゃんのもう一方の腕を抑え付けているらしい。(見えないので、どっちがどっちの腕を担当だかは分らないが)
ダイベンガーの意識とリンクして勝手に動き回ろうとするエメドラちゃんは、今は三人の力で押さえつけられていて、さすがに身動きが出来ない。ときおり何か卑猥なことを口走りながら(美女の水浴びを目撃した瞬間に時を止めたダイベンガーの影響)、僕の顔面にお尻をグリグリと押しつけてくるくらいだ。
僕はエメドラちゃんのお尻を顔面に押しつけられても、汚いとか嫌だとか言う気持ちはぜんぜん起こらなかった。むしろエメドラちゃんのお尻はとても柔らかで、それが何故だか僕の心をとても幸せな気持ちにしてくれた。
そして、さらに素晴らしいことに僕の顔面は肩車したブラカスちゃんの太ももにガッチリと挟まれている。僕はそんなブラカスちゃんの健康的な太ももの圧迫感も、苦しいとか嫌だとか言う気持ちはぜんぜん起こらなかった。むしろそれはエメドラちゃんのお尻の感触と相まって、幸せのダブルチーズハンバーグ・チーズハンバーガーといった超お得感で、二重の幸福感を僕にもたらしてくれていたのだ。
僕はそんなわけで、このままずっと、このダイベンガーを操縦していたい。死ぬまでずっとダイベンガーを操縦して、そのまま死んでしまいたいとさえ思っていた。
「よし、ダイベンガーのすぐ目の前にビッグマウス・サンドワームの群がいるぞ。そうだ便器ちゃん、このまま砂漠を去る前にさ、ダイベンガーでこのビッグマウス・サンドワームの群をやっつけてゴールドベル・スケープゴート達の仇討ちをしてやろうぜ」
エメドラちゃんがそんな提案した。
僕は前が見えないから状況はぜんぜん分らないけれど、少しでもこのままの状態が長く続くのなら大賛成だ。それに戦うならきっと、ダイベンガーは今よりももっと激しく動く回るに違いない。そうなるときっと、ブラカスちゃんは僕の肩から落ちないように太ももをもっと強く締め付けるだろうし、エメドラちゃんのお尻もプリプリと良く揺れるに違いないのだ。
「よし、やろうブラカスちゃんフゴフゴ」
僕の返事を聞いてブラカスちゃんは気合いが入ったのか、太ももに力を入れてキュッと締め付けて返事をした。
「ああそうだそうだ、その調子でもっと僕を締め付けるんだフゴフゴ」
「?? 便器ちゃん、なにか言ったのかい」
「何でも無いよフゴフゴ、ゴールドベル・スケープゴートの仇討ちをしようって言ったんだ」
「そうか、それじゃあ一丁やってやろうぜ」
それからしばらく僕は、ブラカスちゃんが「もういいよ」というまでエメドラちゃんの足を動かして、ダイベンガーの下半身を歩かせ続けた。
「オーケー、ここからが上半身の活躍する番だぜ。よし右のビッグマウス・サンドワームから片づけよう。メフィスト、そいつの首を掴め」
「ラジャ-」
メフィストの奴はすっかりブラカスちゃんの助手気分で指示に従った。少し羨ましいけれど僕の位置からは外の様子が見えないからどうしようも無い。でも目の前にはエメドラちゃんのお尻があるんだから、気持ちの悪いビッグマウス・サンドワームなんか見ているよりもこっちの方が百倍もいいはずだ。
「よし、後は俺に任せろ」
ブチャー
「やった、いっちょ上がり!」
ブラカスちゃんのウキウキした声がして、太ももがキュキュッと締まった。
「便器ちゃん、前に三歩進んで」
「ふぉおおおおいいいいい」
僕は返事をしながらエメドラちゃんの足を動かした。
「うりゃー、これで二匹めだー」
ブシャー
「お見事ですぞー」
キュッキュ
「むふぉふぉふぉふぉおおおお」
こうして僕はただただブラカスちゃんの太ももが締め付けてくる至上の極楽を堪能しながら、同時にビッグマウス・サンドワームの群を駆除する手伝いをしてゴールドベル・スケープゴートの仇討ちも果たしているのだった。そうやって小一時間ばかりかけて、僕らは共同作業を続けていた。
「ふーふー、これでこの辺のビッグマウス・サンドワームはほぼ片づいたかな」
ブラカスちゃんが息を弾ませている。
「フーフーフー、やったねブラカスちゃんフーフーフー」
僕の息遣いはブラカスちゃん以上に弾んでいた。
戦いを終えたブラカスちゃんの太ももは、ほんのり汗ばんでいて僕の頬にピッタリと張り付いている。そして僕の頬も汗でビチョビチョだ。そんな二人の体液がかき混ぜられて溶け合って、まるでブラカスちゃんの太ももと僕のホッペの肌が同化してしまっているような気さえしてきた。
そしてそんな僕の汗だくの僕の顔を、ときおりエメドラちゃんの白いパンティーが汗を拭くように拭っていった。でもエメドラちゃんのペンティーはすっかり僕の汗でグショグショなので、もうあまり汗を吸い取ることは出来なくなってしまった。僕はエメドラちゃんのパンティーを自分の体液でグショグショになるまで汚してしまったのだ。ああ、僕は何てことをしてしまったんだ。ごめんよエメドラちゃんンフーンフー。
「なんだ、様子が変だぞ」
ブラカスちゃんの鋭い声がした。
「そんなこと無い、変なこと無いよ普通だよンフーフー」
「そうじゃない、ビッグマウス・サンドワームの死体が変なんだ!」
「どうしたの、見えないから何が起きてるのか説明してよブラカスちゃんンフー、フーフー」
「あいつら、バラバラにしてやったのに一カ所に集まってドンドン再生していくんだ。なんだ、どうなってるんだ?」
ブラカスちゃんの動揺した声でただ事で無い事が起きているのは分ったけれど、いかんせん僕の位置からはエメドラちゃんのお尻しか見えない。きっと大変な非常事態なはずなのに、僕は何て無力なんだろう。
「ブラカスちゃん落ち着いて、ブラカスちゃんはガンバリパークの知の化身、ブラックカオスドラゴンのズルンズじゃないか。この世界のことは何でも良く知ってるはずだろう。どうしてビッグマウス・サンドワームが再生していくのか、分らないのかい?」
「分る訳ないだろう・・・・・・。ビッグマウス・サンドワームは本来、砂漠の生態系の頂点に君臨していたんだ。そもそもこいつらが外敵にやっつけられることなんて、これまでガンバリパークの歴史上に無かった事なんだから、これはガンバリパークが始って以来、これまでに起こったことの無い全く新しい事象なんだ」
「じゃあビッグマウス・サンドワームが再生するっていう事は、今、新しく分かった事実って事になるんだよね」
「そういう事になる・・・・・・かな?」
ブラカスちゃんはこんな非常事態なのに、少し嬉しそうに答えた。それは先祖代々に知識に自分の世代で新しい事実を書き加えられることを喜んでいる、ブラックカオスドラゴンの特性による性質に違いない。しかしブラカスちゃん、ここで僕らがやられてしまったら、ブラカスちゃんの新しい知識も後の世代に伝えることが出来なくなってしまうんだよ。
そんな事を僕が考えている間に何故だかコックピット内が赤い光で照らされていく。それは外に、すぐ近くに激しく赤い光を放つ光源があるという事だ。
「すごい、ビッグマウス・サンドワームが一つに集まって合体したぞ。そしてその口を大きく開けて・・・・・・」
ドキューーーーーーーーーン
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、
「キャアアーーー」
突然コックピット内が前後に大きく揺さぶられて、ブラカスちゃんの悲鳴が聞こえた。
「ブラカスちゃん、ブラカスちゃん!」
名前を呼んでいる間にも、コックピット内はドンドン水平を失っていった。これは、もしかしてダイベンガーが倒れそうになっている?
とっさにエメドラちゃんの足を掴んで体勢を立て直そうとしたが間に合わない。
ズウウウウウウウウウウン
「うわああああ」
自分たちが乗ったダイベンガーが仰向けに倒れていくのが分った。何故ならダイベンガーが倒れたショックでエメドラちゃんが僕の膝の上から転げ落ちて、青空が写った正面のモニターが見えるようになったからだ。
「キャアアアア」
ズズウウウウウウン
地響きがして、ダイベンガーが完全に倒れてしまった振動が伝わってきた。狭いコックピット内でエメドラちゃんとブラカスちゃんの体が一瞬宙を舞って落ちていく。その光景をスローモーションで見つめながら、僕の心の中には信じられない思いがかけめぐっていた。
「そんな馬鹿な、圧倒的に無敵のはずのダイベンガーがやられたというのか?」
いやそんなハズは無い、まだ勝負は付いていないはずだ。何故ならダイベンガー自身の損傷は分らないけれど、コックピット内の僕らはまだ無事なのだから。
でも、ダイベンガーがダウンさせられたという事は確かな事実だ。つまり、現実のダイベンガーはフィクションの様な無敵のダイベンガーと違って、圧倒的に強くは無いという事を物語っている。それは、やりようによってはダイベンガーが怪物に負けてしまうという事もあり得るという事だ。
「うぐぅ」
ドスドスッ
エメドラちゃんとブラカスちゃんの体が、僕の体の上に落ちてきた。もしかしたらアムリタの効果が薄くなっているのかも知れない。羽のように軽かったはずの二人の体の重さをしっかりと感じて、僕はうめき声を上げた。
「うぅぅブラカスちゃん、ブラカスちゃん!」
僕はブラカスちゃんの名前を呼び続けた。しかしブラカスちゃんの返事は無い。体を動かそうとするが、二人の体が重くて身動きが出来ない。
「ブラカスちゃん、どうしたんだ返事をしてくれブラカスちゃん」
「どうやら・・・・・・、黒い方のレディーも気絶してしまわれたようですな」
ブラカスちゃんの代わりに姿の見えないメフィストの声が答えた。
「そんな、エメドラちゃんのみならずブラカスちゃんまで気絶してしまうなんて・・・・・・、これじゃあ一体どうやって、合体したビッグマウス・サンドワームと戦えばいいんだよ」
「・・・・・・」
僕はメフィストから回答を期待ていた訳では無かったし、メフィストも僕に何も答えなかった。僕の発した疑問は、ただコックピットの窓から覗く青空に吸い込まれていっただけだった。ダイベンガーは今仰向けに寝そべっている。もしもここが戦場で無ければ、きっと見とれていたであろう、それほどにダイベンガーのコックピット内から見上げた空は青々としていて雲が静かに流れていった。
しかしそんな青空は巨大な影によって遮られた。合体したビッグマウス・サンドワームの影だ。
目の前を覆った合体したビッグマウス・サンドワームの姿は、砂漠のミミズの様な細いウネウネとした元の姿から、太い一本の切り株のような姿に変わっていた。そして一つになった大きな口の周りには、元のビッグマウス・サンドワームくらいの太さの触手がウジャウジャと蠢いている。その姿は巨大なイソギンチャクのように見えた。
イソギンチャクの口の周りのビッグマウス・サンドワームが外に向かって広がっていく。そして強烈な赤い光が、広がったビッグマウス・サンドワームの口の中に見えた。そうだ、ダイベンガーが倒れる前にコックピットの中を照らしたあの赤い光と同じだ。
「まずい!」
僕は慌てて目を閉じた。
ビョンッ
ズオオオオオオオ
ダイベンガーが振動しているのを感じる。僕の想像が正しければ、合体したビッグマウス・サンドワームは至近距離からビームを放ったに違いない。瞼の向こうから、目を閉じていても分る光の洪水を感じる。
やがて光の洪水が収まって、僕は恐る恐る目を開けた。コックピットから覗く空が紫色に染まっているのが見えた。それからビッグマウス・サンドワームの姿も何だか赤っぽく見える。これは、もしかしたらダイベンガーが出血しているのかも知れない。そんなことを考えていると、再びビッグマウス・サンドワームの口が開き始めた。
「第三射だ、早すぎる!」
ビョンッ
ズウウウウウウウウウウウウウ
パリパリ、パリンッ
ビリビリビリビリビリ
振動が伝わってきたが、さっきと少し違う音だ。何かが割れるような嫌な音や、硬い物が振動する音も聞こえる。確実に、ダイベンガーはダメージを受けているに違いない。いくらダイベンガーが無敵でも、このまま無防備に攻撃を食らい続けたらやられるのは間違い無い。
「メフィスト、メフィスト何か、何か手は無いのか?」
「何かと言われましても」
「そうだ武器だ、ダイベンガーには仕込み武器があるはずだ。ビッグマウス・サンドワームは目の前にいるんだから、口から光線とか、頭に付いた60ミリバルカン砲とか、そういう頭部の仕込み武器で攻撃すれば絶対当たるじゃ無いか」
「ほほ、ご冗談を・・・・・・。現実のダイベンガーの体にそのような仕込み武器などあるわけ無いでしょう。口から光線? ダイベンガーは二足歩行ですぞ。あのような切り株上の生き物ならいざ知らず、この細い首から光線などと・・・・・・。それに頭に60ミリバルカン砲など付いていたら、一体どこに弾倉を仕込むのですか? 頭の中まで弾丸で一杯になってしまうじゃありませんか」
「ぐ、ぐぬぬ」
メフィストの反論は実に的を得ていた。口から光線の事はいざ知らず、頭にバルカン砲など、どうやったってリアリティーが無い設定だ。僕は現実とフィクションの世界を混同して、ついアホなことを口走ってしまったのだ。ああ、恥ずかしい。
「・・・・・・」
僕が恥ずかしさに耐えながら若干思考停止していると、メフィストが出し抜けに言った。
「ところで便器さん、あなたどうして自分でダイベンガーを動かそうとしないのです?
先ほどまでは立派に下半身の稼働を担当していたでは無いですか。逃げるだけなら下半身だけでも出来るでしょうに」
「それが、何だか自分の体に力が入らなくて、今は気を失っている二人の体を押しのけることさえ出来ないんだ」
「ふむふむ、そうですか。ところで私の方ではもう一人の方も気を失ってしまったので、ダイベンガーの精神を分割して黒いレディーの方にも繋いでみたんですけど、そちらでどうにか動かせませんかね」
「えっおまえまさか、ブラカスちゃんの頭にも魔界寄生虫を繋いだのか」
「ええまあ、元の触手に増設した新しい尻尾ですけどね」
ちょうど目の前に、ブラカスちゃんの手が投げ出されていた。ブラカスちゃんの手だけなら少しは動かせそうだ。
「く、勝手なことをばかりしやがって」
そう言いながら僕はブラカスちゃんの手を掴み、モニターの真ん前にいるビッグマウス・サンドワームに向かって突き出した。
ドウッ
モニターの向こうで、ビッグマウス・サンドワームの巨体がダイベンガーのパンチを受けて大きくのけぞった。
「やった、当たったぞ!」
「ほほ、やりましたな。その調子です」
カエルに褒められてもあまり嬉しくは無い。でも、これで少しは体勢を立て直せるかも知れない。ダイベンガーの腕が動いたお陰でコックピット内部が少し傾いて、上に乗っかった二人の体の位置が少しだけ動いた。今度は目の前にエメドラちゃんの足がある。
「よし、今度はキックだ」
僕はエメドラちゃんの足を掴んだ。モニターにはパンチでのけぞったビッグマウス・サンドワームが写っている。その姿に向かってエメドラちゃんの足を蹴り出した。
スカッ
「くう、今度は外れた」
ズウウン
オマケに足を動かしてせいでダイベンガーの姿勢が変わってしまい、モニターの画像からビッグマウス・サンドワームの姿を見失ってしまった。画面には左側に地面、右側に空が写っていてダイベンガーの頭が左を向いてしまった事が分った。
「やった、今なら少し動けるぞ」
ダイベンガーが姿勢を変えたお陰で、ブラカスちゃんとエメドラちゃんの体の位置が少し動いたのだ。これなら立ち上がれる。
ズガアアアアアア
立ち上がろうとエメドラちゃんの足に手を伸ばした途端、出し抜けに背中から強い衝撃を感じた。
「く、第四射か」
ズガーアアア、ズウオオオン
「あああああ」
第四射の後で続けざまに衝撃が連続して二回あった。ビッグマウス・サンドワームは攻撃を溜のいらない体当たりに切り替えたのだ。モニターに映った画面は、ほとんど地面だけを映していて、ダイベンガーがうつ伏せの姿勢になった事が分る。
「くそ、やっぱりこんなのじゃあまともに戦えない。一人で二人の体を動かして敵と戦うなんて無理なんだ。戦うどころか立ち上がることさえ出来やしない・・・・・・」
ズガーアアア、ズズウウウウウウン
ブウウゥゥゥゥゥゥンンンン
ピリピリ、パリンパリンッ
ドグシャー
ダイベンガーのコックピット内が揺れ続ける。ビッグマウス・サンドワームが体当たり攻撃を続けているに違いない。
プシ、プシャー
無敵のダイベンガーの中の、安全なはずのコックピット内であちこちに亀裂が走り、そこから得体の知れない黒い液体が勢いよく噴き出してきた。
「だめだ、このままじゃ絶対やられる!」
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