1円玉の価値

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1円玉の価値

『1円玉を拾うエネルギーは1円以上かかる。よって1円玉は拾わないほうがお得で良い。』  1円玉を拾うための時間、拾うという行為に使うエネルギー、1円玉の1gを持ち運ぶためのエネルギーなどの視点から考えると、どう見積もっても「1円を拾うことは損」ということだった。発表したのが有名な企業の研究所であったこと、ネットで爆発的に話題になったこと、そして何よりも昨今の電子マネーの普及により「1円玉に価値を感じていない」人間が多くなっていたことで、この発表は常識とされるまでになった。  しばらくすると、町のあちこちに1円玉を見るようになった。誰かが転んだ時に落としたのか、自動販売機で使う他の小銭と一緒に落としてしまったのか。鈍く光を反射する1円玉は、誰にも見向きされることはなくなった。  あるとき誰かが気が付いた。あちこちに放棄された1円玉が消えた。だが、「1円に対して考えること自体無駄だ」と誰もが考えるようになってしまっていた。 「1円の価値」と「1円玉の価値」は違うと人々が改めて気づいたときには、もう遅かった。 ある日、日本は襲撃を受けた。ある有名な企業が、大量のアルミニウムを素に戦闘機や戦車といった兵器を大量に制作しており、日本国はあっという間に転覆した。世界中の兵器会社はその企業に尋ねた。「いったいいくらで、そんな大量の兵器を作ったんだ?」 「1円だよ。」
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