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友人に誘われて、明日美は青空市に出かけた。休日に誰かと外出するのは久々だった。学生時代からの仲間で、独身なのは彼女と明日美だけだった。どうせ暇なら附き合ってよと云われ、あんただって暇なんでしょと云い返して、承知した。こんな風に云い合えるのも、お互い似た者同士だからだと、明日美は内心で苦笑した。
市は大盛況だった。日曜だけあって親子連れが多く、公園内は青空を覆うように明るい声で満ちていた。地元の農家や洋菓子店、フランクフルトなどの軽食を売る屋台の他にも、手作りのアクセサリーや古着と云った個人の出店もあった。
暇潰しに来ただけだったが、場の賑やかさにつられてこちらの気分も自然と上がる。最初の億劫な感情は、明日美の中からすぐに消え去ってしまった。
「あ、可愛い」
思わず呟いて、立ち止まった。布のかかった販売用のテーブルの上に、小さな熊や兎のぬいぐるみのついたキーホルダーが展示されている。
「どうぞ見ていって下さい」
ベレー帽を被った女性が、明日美に愛想良く笑いかける。二人の年齢はそう変わらないだろう。
「これ、手作りですか、」
「はい。ここにあるものは、全部私の手作りです」
明日美はカフェオレ色の熊を手に取って、しげしげと眺めた。黒いビーズの目玉が愛らしい。明日美も以前、フェルトでマスコットを作っていたことを憶い出した。とりわけ目をつける作業が、愉しかった。目をつけると、途端にただのモノから、ひとつの命へと変化するのだった。
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