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しのぶは肩で息をしながら、ひめくりを見すえた。言葉が出てこない。呼吸の所為ではない、何か一言でも発したら、本当に心が割れてしまいそうで。
「しのぶさん、今、ひめはシダのしのぶさんにお歌を聴かせてもらっていたんですよ」
励まそうとしてか、ひめくりは笑って云った。しのぶは、ぐ、と、奥歯を噛みしめた。割れる割れる、もう割れている。「……シダが歌なんか歌っても、しょうがないじゃない」
「え……?」
意思とは関係なしに、涙が後から後からあふれてくる。しのぶは両手で顔を覆った。
「しのぶさん、何がそんなに哀しいんですか。ひめに出来ること、ありますか、」
動揺しながらも、ひめくりは懸命にしのぶの役に立とうとする。ひめの出来ることなら、ひめはとってもがんばります。出会った当初の言葉を、しのぶは思い出す。皮膚を引っ張るように、手のひらで涙を拭った。
「ひめくりはそのシダと喋れるんだよね? だったら、そのシダに云って。花を咲かせてって。今すぐ花を咲かせて、私に見せて。そう云ってよ」
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