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頭を下げてしのぶに謝罪する。痛々しかった。しのぶは烈しい後悔に、胃が締めつけられる。
「ごめん、ひめくり、ごめんね。意地悪なことを云って、ごめん」
ひめくりは泣き濡れた目でしのぶを見つめる。「意地悪なことを云われたのは、しのぶさんじゃないですか? それで泣いていたんじゃないですか?」
しのぶはかぶりを振る。意地悪なことなんて、云われてない。誰にも。でもきっと、自分が自分に、意地悪なことを云っていた。いつも。無理やりねじ曲げるみたいに。
金粉が流れるような音がして、シダのしのぶの葉の間から、何か白いものが現れる。根ではない、ふっくらとした、宝珠のようなかたち。蕾だ。
嘘、と、しのぶが息を飲むのと同時に、花は開いた。五枚の花弁を、蝶の翅のように広げて。
「わあ……」
ひめくりも感激の声を漏らす。しかし花はたちまちしおれ、跡形もなく消え失せた。うたかたの開花だった。
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