第一話

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第一話

 幸せ。とはどう云うものなのだろうと、最近つくづく考える。  同じ判子(はんこ)をくり返し押すような毎日。判子(はんこ)の数がどれだけ溜まっても、何のご褒美も無い。ただ台紙が虚しく薄汚れていくだけ。恋人はいない。友人ならちょっとはいるけれど、この頃あまり遊ばなくなった。みんな自分のことで忙しい。特に向こうが結婚してからは、お互いの生活が違いすぎるからか、連絡を取り合うことも減ってしまった。  仕事が充実しているならば、それはそれで満足して暮らせるのかも識れないけれど、そんなことは無い。そもそも好きで入った職場ではない。入れたから入っただけで、全くもって愛着はなく、かと云って新天地を望む気概も無い。とにかく無いことばかりだ。  愉しみにしていることも取り立てて無い。仕事から帰宅すると、食事をしながらテレビを観て、あとは寝るだけ。休みの日はたいてい一日中睡っている。つまり仕事以外の時はおおかた寝ている。無為な時間が貴重な若さを喰い潰そうとしている自覚は、ある。  二十代も最後の年だから、今年こそは幸せになろうと決心して、張り切って初詣に出かけた。電車に乗って、毎年もの凄い参拝客で溢れ返る有名な神社へ行った。前後左右を人に揉まれながら、必死になって手を合わせて、願った。今年こそは幸せになりますように。今年こそは、必ず幸せになりますように。  それから四ヶ月経つけれど、ちっとも幸せのきざしは訪れない。自分はきっと、このままつまらない一生を送るのだと思うと、永遠にぬかるみの中をつめたく歩いているみたい。今朝、鏡を見たら、目元にうっすらとしたしみが出来ていた。
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