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7.ゆけよ、チャーリー
窓を閉め忘れたのだと、チャーリーは思いました。
初夏の夜、まだ焦らすように冷えた夜風が裸足の足先を撫でた気がしたからです。半分眠たい頭と半分起きた頭で窓を確認したら、チャーリーはベッドから這い出ました。立ったフローリングの床も妙に温度に覚えがなく、慌てるように、チャーリーは窓へ駆けました。
――やっぱり、閉まっている。鍵も
ガタガタと、手応えで応答をうながし、チャーリーは呟きました。諦めるように。すると、今度はまた、ひんやりとした感触が頬を撫でるのです。
――風、に似ているけれど、風じゃないや
チャーリーは何度か手で顔を隠しかけて、やめて、をチグハグだったりそうでなかったり、数度繰り返しました。迷っていたのです。これは、今、どちらだろうか。チャーリーは頬を撫でる感触を、拒みたくはなかったのです。でも、風もないのに揺れる空気に、怯えてもいました。
ゆけよ、チャーリー。
ゆこう、チャーリー。
チャーリーの閉じていない目に、誰かが闇にいます。
チャーリーの塞いでいない耳に、誰かがやがて大きくなりそうな声で言います。
チャーリーは窓の下に屈んで空を見上げました。月明かりが雲をじんわりと薄黄色に染めているのがみえました。
姿見の前で、チャーリーはポーズを決めます。今、決めるべきポーズを。暗闇を映す鏡に、一人の怯えがちな少年の握った拳が一個、勝ち誇った顔に添えられていました。
頬の感触に呼ばれるままに、鏡の中を飛び出して、チャーリーは屋根裏部屋で金色のゴーグルをみつけます。
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