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1.お化け
――お化けが紛れてみえるんだ
少年は部屋に閉じこもってそう、何度も同じ言葉を言いました。
――お化けの声が混じっているんだ
少年は輝くための未来をきちんと瞳に二雫もらった眼を、両の掌で塞いで、ベッドに潜り込みました。
――僕にはよくわからない。どうしてみんな平気なのかが、それが、わからない。父さん母さん、兄さん、姉さん、あのマーケットにも、そこの大通りにも、路地にも、スクールにも、バスにも、空にも、ビーチにも、お化けはいる。鳥のさえずりにも、野球観戦の声援にも、ラジオの音楽にも、通りで交わされる挨拶にも、お化けの声は心臓をかき乱す不気味さでいるのに。
少年は愛を聴くために調節された鼓膜の張りをたゆませることもできずに、両の親指で耳に栓をして、ベッドで小刻みに震えました。
お父さんもお母さんも、お兄さんもお姉さんも、初めのうちは少年を励まして外にお化けのいないことを語り、連れ出そうとしましたが、少年の眼と耳の一番手前、もしくは一番奥に、本物のお化けがいることを知ると、もう、少年に何も言うことをしなくなったのです。
――あのお化けにまた会うのはごめんだ
お兄さんは買ったばかりの中古車に飛び乗る練習に忙しく、お姉さんは隠さなかったほくろをチャーミングだと褒めてくれた先生に夢中でした。
――あの声、ああ、おぞましい、もう、聴こえなくなったのよ、私は
お父さんはおうちのセールス中、うっかり誰もいない売り家に主のいない影を背中でみてしまいました。
――チャーリーには困ったもんだ。いつまでこんなこと
お母さんは教会でお祈りを捧げながら、黒猫の喉に人の悲鳴を聴くのです。
――あれは、お化けの声じゃない。ただの誰か私には関係のない悲鳴、なんだわ
お兄さんも、お姉さんも、お母さんも、お父さんも、いつか忘れたお化けの姿と声をチャーリーに内緒にしているのです。
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