自殺を見過ごすor自殺をやめさせる

2/9
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
【自殺を見過ごすor自殺をやめさせる】  制限時間――1時間。  何回読んでも意味がわからなかった。自殺だって? 書き方的には誰かが自殺をしようしているようだ。それとも誰か自殺志願者を見つけないといけないのだろうか。そのわりには制限時間が1時間しかなかった。  陽一は振り返って、目の前にそびえ立つ校舎を見上げてみた。開校してから今年で20年以上経つらしいが、クリーム色に染まった校舎は比較的汚れもなく、綺麗な外観を保っていた。  校舎との距離が近いために、屋上はほとんど見えないが、校舎裏側に誰かが立っていたらわかるはずだった。少なくとも人の気配はしない、もし、いるとしたらグラウンド側に立っているのだろうか。それとも、これから自殺志願者は現れるのか。  確認のため、わざわざ屋上にまで行くのは面倒だった。しかも保証がいっさいない。  慌てて屋上へと走っていく陽一を見て、誰かが「ほら見ろよ、バカが騙されてやがるぜ」と笑っている様子の方が、容易に想像つく。  事実だとしても悪戯だとしても、気持ちが悪かった。陽一が「自殺」というものに過剰に反応してしまう。そのことを「選択ゲーム」の運営が知っているような気さえしてくる。  陽一は「選択ゲーム」をやめようと、画面をスクロールしていく。しかし、どこにも「やめる」というボタンはない。  挙げ句の果てに、こんな警告を発見した。 ※制限時間以内にクリアーできなかった場合「死」にます。 「ちっ」  どこまで気持ちの悪いサイトなんだろうか。もちろん本当に「死」が訪れるとは思わなかったが、悪趣味なのは間違いない。  とにかく、サイトを閉じようとした。しかし、ホーム画面に戻ろうとスマートフォンをロックしても、その上にポップが表示され続ける。 【自殺を見過ごすor自殺をやめさせる】  まるでたちの悪いウィルスのようだった。どちらかを絶対に選べと言っているようだ。 「クソッ、ムカつく」  何とか消そうともがいていたら、「自殺を見過ごす」という選択肢をタップしてしまったようだ。  「自殺を見過ごす」で確定してしまった。偶然でもこんなクソみたいな選択肢を選んでしまったことを、呪いたい気持ちになる。  そうこうしている間には制限時間は刻々と減っていく。残りは55分42秒だった。  悪戯にしては度が過ぎている。もしかすると本当に自殺志願者がいるのかもしれない。  少し考えた挙げ句、舌打ちをすると陽一は屋上へと足を運んだ。  誰もいるんじゃねえぞ、そう思いながら陽一は屋上へと続く鉄扉を開ける。夕方だというのに不自然なくらい青い空と、コンクリートの地面が広がっていた。  そして、その先に髪の長い少女がいた。  しかも、いままさにフェンスをよじ登ろうとしているところだった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!