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「おい、何してんだ!」
転落防止のために設置されたフェンスに、髪の長い少女は両手と片足をかけていた。
陽一が思わず叫ぶと、彼女の方が一瞬跳ねた。そして肩越しに陽一の方を振り返る。
その瞳には怯えと困惑が浮かんでいた。
まさか、本当に自殺志願者がいるとは……。陽一は「選択ゲーム」をはじめたことを激しく後悔した。そして、偶然だと思うことにした。あの選択肢が出るということは、誰かが自殺しようとしていることを知らないといけない。
しかし運営は俺のことも俺がどこにいるかも知らないはずだ。だから、ありえない。そう結論づけた。
張り付いたように金網のフェンスにしがみつく少女に向かって、刺激しように一歩一歩近づいていく。
彼女の顔に見覚えはなかった。制服に身を包んでいることから同じこの高校の生徒だということはわかる。
しかし、見かけたことはない。まあ数百人も生徒がいるのだから当然だが。
彼女は陽一が近づいてきていることに気づくと、「こ、来ないでください!」と悲鳴のように叫ぶ。
「落ち着けよ、そんなとこいたら危ないぞ」
「良いんです。死ぬんですから」
やっぱり自殺志願者か。陽一は心の中で舌打ちをした。最悪だと思う。いつかの光景がフラッシュバックする。
打ち消すように自分の頭を掴んだ。馬鹿なことは考えるんじゃねーよ。
制服に身を包んだ少女は陽一が何も言い返さないのを見ると、再びフェンスを登りはじめた。長い髪の毛が振り子のように左右に揺れる。
「……やめろ」
陽一は走りながら彼女へと近づいていく。陽一の声は無視された。
「やめろって!」
陽一は近くまで駆け寄ると、すでに半分以上まで登った少女の足首を掴む。キッと睨まれたが、構わず睨み返す。
「あ、あなたに何がわかるんですか」
「……二回目なんだよ」
陽一がそうぼやくと、少女は目を丸くした。陽一が自殺志願者を見たのはこれで二回目だったのだ。
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