君が寝てること

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わたしも横やら上で眠ることもある。でも、呼吸が落ち着いたら一度起きあがって、シャワーを浴びるのが多いパターンで、神経質だからか、基本的にさっぱりしていないと寝る気になれない。 なんにせよ、わたしは大体三時に一人でシャワーを浴びて、彼があられもない姿で居る所に戻る。 睡眠導入剤を飲まないと、どんどん目がさえてくる自分を、何だかなぁと思いながら、間接照明の灯りにかろうじて表情をフューチャーされた男の寝顔を見る。 お腹、冷えるでしょうと、布団を胸の下まで掛けてやり、一度キッチンに行き取ってきた炭酸水のレモン風味のついたのを飲みながら、彼の部屋のウォークインクロゼットの一番右はしにハンガーで引っ掻けてある花柄のキモノ的デザインのガウンを着て、のんきなお腹の横に座る。 それで知ったのは、自分が眠れなくても、まあそいつが寝てるのを見ているだけでも、それなりに安らぐということだ。 だけれど暇で、仕方がないから次に彼と合うときにどんな服を着ようとか、それならあのサンダルが良いわとか、今日と同じのして欲しいなあとか、目を閉じて思う。 やつの寝息が少し大きくなったり、また少し静かになったりするのを聞いていると、目を閉じたまま笑ってしまったり。一人で自分のアパートに居たら、ただ眠れないでうんざりして薬飲んで横になって、笑えないで眠るのかな、それは、それがわたしの人生な所があるから、仕方ないけど、友達であれ彼氏であれ、こいつ嫌いじゃないなと思えるやつが寝てるって、実際に眠るのに近い効果を感じる。 わたしは若いし、この男は野心家だし、その内別れるんだろう。結婚なんて望まない。あの両親の、息苦しい生活のやるせない、どうしようもない風景を思い出すと、もはやあんなになると相手が寝ていることすら憎いのだろうと思う。そうなりたくない。 誰かが寝ていることを、ふっと、目を柔らかくして笑える自分でいたい。 子供にして不眠症と診断されたとき絶望を感じたけど、眠ることは子供が捉える限界より広い概念で、必ずしも肉体が寝ていないことが不幸ではないと知る。 一応彼氏の男は疲れと満足感をたっぷりはらんでアイボリーのコットンシーツの上でずっと寝ている。 わたしはそれを今日も見ている。
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