Ⅳ 幻の正体

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「ん……」  さざなみのように光が揺れた。  小さな吐息と共に。  私は思わず身を強ばらせ、手の上に載せた子供の髪が、するするとこぼれ落ちていくのも構わずに、ただその場に固まっていた。  鮮やかな碧海色をした二つの双眸が、金色の睫の下からのぞいていたのだ。  それは一瞬焦点が合わないように何度かまばたきを繰り返した後、長椅子の前に膝をついている私の顔をとらえた途端、子供とは思えないくらいの鋭い光を帯びた。ゆっくりと、ほのかな紅色をした唇が言葉を紡ぐ。 「あなたは、誰?」  枕にしていた本の上に右手を載せ、子供は見知らぬ顔に驚いたのか、慌てて上半身を起こそうとした。  その時、重ねていた本がぐらりと不安げに揺れた。長椅子には肘置きがついていない。本は子供が右手を載せた勢いに任せ、そのまま前方へ崩れ落ちていく。その小柄な体ごと……。
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