Ⅳ 幻の正体

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「――っ!」  本が芝生の地面めがけ落ちた。  その質量の重さからくる振動を感じながら、私は右手を伸ばし、頭から芝生へ転落しかけた子供の体を夢中で捕まえた。 「おい、大丈夫か?」  思わず芝生に尻餅をつき、胸の中に抱きとめた子供に向かって呼び掛ける。  子供は突然の出来事に驚いてしまったのか、一言も声をあげず、ただただ小柄な体を縮こませ、私の体にしがみついていた。白いリネンのシャツにベストを着た双肩が、動揺の激しさを表すように上下に大きく動いている。 「本を枕などにしているからこうなるんだ。それより、怪我はないか?」  芝生に腰を下ろしたまま、私は仕方なく子供の頭をそっとなでた。  そうしていると、荒い呼吸をしていた子供の肩がそれほど大きく上下しなくなり、しがみついていたその指から、ゆるゆると力が抜けていった。
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