11人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「ごめんなさい。本がくずれるなんて、思わなかったから……。それよりあなたは大丈夫? 怪我はないですか」
「えっ? ……あ、ああ」
まさか子供に気遣われるとは。
「よかった」
細めていた目元の緊張を解き、小さな唇が笑みを形作る。初めて年相応の無邪気な表情を見せた子供は、陽の光を受けて眩しげに光る髪を風に遊ばせながら、ゆっくりと立ち上がった。
「枕にするつもりじゃなかったんです。ちょっと本を読んでいたら、ねむくなっちゃって」
子供は椅子の足元に散らばった本を拾い上げた。
くっと息を詰めて本を持ち上げ、しかし片手で持つのは辛いのか、両手で抱えると、どすっと音を立てて再び長椅子の上にそれを置いた。
<エルシーア海軍100年史>
どうみても子供が読んで楽しいと思える本ではない。
最初のコメントを投稿しよう!