Ⅴ 命の光

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「ごめんなさい。本がくずれるなんて、思わなかったから……。それよりあなたは大丈夫? 怪我はないですか」 「えっ? ……あ、ああ」  まさか子供に気遣われるとは。 「よかった」  細めていた目元の緊張を解き、小さな唇が笑みを形作る。初めて年相応の無邪気な表情を見せた子供は、陽の光を受けて眩しげに光る髪を風に遊ばせながら、ゆっくりと立ち上がった。 「枕にするつもりじゃなかったんです。ちょっと本を読んでいたら、ねむくなっちゃって」  子供は椅子の足元に散らばった本を拾い上げた。  くっと息を詰めて本を持ち上げ、しかし片手で持つのは辛いのか、両手で抱えると、どすっと音を立てて再び長椅子の上にそれを置いた。 <エルシーア海軍100年史>  どうみても子供が読んで楽しいと思える本ではない。
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