Ⅰ 庭園の記憶

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「これはツヴァイス様。お久しゅうございます」  屋敷の通用門で私を出迎えたのは、齢五十才ぐらいの執事だった。 「ちょっと近くまで来たものだから、寄ってみたのだ。元気そうだなエイブリー」  執事は私の姿を頭の頂点から、足のつま先まで素早く見つめた。  海軍本部を出た足で屋敷を訪ねてしまったので、私は濃紺のコートタイプの軍服に黒の長靴を履いた姿だった。  けれどエイブリーが一番驚いたのは私の顔だった。 「眼鏡をかけられたのですか。ツヴァイス様」  私は右手を銀縁の眼鏡の鼻当てに添えると、ゆっくりと頷いた。 「海上を長い時間見ていると、目が疲れるようになってしまってね」 「左様でございますか。海軍の仕事は我が主の方々を見ていて、その大変さは存じております。ですが、お体を損ねないよう、どうかご自愛下さいませ」 「ありがとう。久々に――グラヴェール少将閣下にお会いしたいと思って来たのだが」 「申し訳ございません。アドビス様は現在、艦隊を率いて海賊討伐へ出られており不在でございます」    それがわかっているからやってきた。  けれど私は少し残念そうに唇を歪めた。
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