出張2

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次の朝はまた正座から始まった。 これはもう恒例なのだが、今回は無理矢理じゃない。むしろ誘ったのは水嶋だと主張したいが「何もしない」約束を破ったのは事実だ。 「ごめんなさい」 これは約束を破った事に対しての謝罪で抱いた事への謝罪じゃない。 知らない間に先に起きたらしい水嶋はもう既にシャワーを浴び終わってる。無視を決め込んでいるのか、水嶋は何も答えずネクタイを結ぼうとしている。しかしここは大事な所だった。 止めようとしない手を掴んでグッと力を入れた。 「……何をしている、お前も早く用意しろ、今日は朝一から忙しいぞ」 「話はこれからなんです、ちゃんと聞いてください」 実は朝方までずっと考えていた。 少しだけでもハッキリさせたいのだ。 昨夜の出来事を度重なる事故の一環に位置付けて欲しくないかった。 今度こそと思っていた。 「水嶋さん聞いてください。何回も言いますが俺は水嶋さんが好きなんです」 「……天気は……この部屋には窓が無いからわかんねえな、ちょっと郊外に出れば車を停めれるファミレスとかがあるから朝飯はそれでいいな、後昼以降はどうなるかわからないから水と食べ物仕入れるぞ」 「水嶋さん!逃げないでちゃんと向き合ってください」 「逃げてない、そんな話をしている場合じゃないだろ、お前忘れてないか?ここには遊びで来ているんじゃ無い、仕事だぞ」 「ホテルを出るまではプラベートです、俺は真面目だって言ってるでしょう、何も心が全部欲しいなんて言ってません。でも認めて欲しい所もあります。俺が嫌いじゃないんでしょう?」 体を重ねる事は水嶋にとって、勿論こっちにとってもまだまだ乗り越える壁は幾重にも重なっている。でも全部が全部嫌だとはどうしても思えないのだ。 この先も、チャンスを盗むような真似はしたくないし、水嶋にも我慢して欲しくない。 「俺はこんな朝を何回も何回も、これからもずっと過ごしていたいんです、水嶋さんと生きて行きたいんです、だから水嶋さんがどう思っているかどうしても知りたい」 「………1つだけ言う……」 少し大きくなってしまった問いかけに落ちて来た水嶋の声は静かだった。 答えてはくれないと思っていたからハッとした。 自然と正座した背筋が伸びている。 「何ですか?」 「江越の事は嫌いじゃないし、この先奥田を率いていく大切な後輩だと思ってる。好きだと言ってもらえるなんて思わなかったから嬉しくもあるけどな………俺にはそんな価値無いんだよ」 「水嶋さんの価値を決めるのは俺であり、会社であり、それぞれです。何故そんな事を……」 「もう出るぞ」 さっとジャケット羽織り、ネクタイを整えた水嶋は、目を潤ませて熱い吐息に色を含んだ昨夜とは別人のようだった。照れもせず、いつものように目を逸らしたりもしない。 「水嶋さん」 「今日は忙しいと言っただろう」 「………はい」 ヒュン……と内臓が落ちたようだ。 まるで業務態度の評価をするような冷たさに次の言葉が出てこない。 これは水嶋の悪い所だと思う。 究極の真面目さ捏ね上げた融通の効かない頑固さは、自分がどう思っているかなど考える事すらしない。しかし、駄目なら駄目でもいいのだ、何度だって食い下がる覚悟はもう出来てる。 返してくれなくてもいいから好きって気持ちを認めて欲しいだけだ。 「唐変木……」 欲しいのは体じゃない。 いや……体も欲しいけど……何よりも心が欲しい。 貰ったのは一欠片をくれたかなって幻想だけだ。 トイレに行くと出口で待っててくれるくせに。 往年の彼氏みたいにラブラブとお金出してくれるくせに。 ちょっと触るだけで耐えられずに変な声出すくせに。 馬鹿馬鹿バーカ コホッと咳が出て、イガイガする喉から苦い物が出て行った。
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