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関口は考える猶予を見越したようにトラックのスピードを落としている。
トラックが走る周りの風景は見通しのいいだだっ広い丘陵になっていた。
なだらかに畝る手入れの行き届いた芝生は海外の様だ、冬の間はスキー場なのだと思う。遠くの方にはリフトの支柱が山に沿ってロープを繋いでいる。
美しい新緑の中にポツンポツンと点在する建物はホテルとかレストランなのだと思う、それぞれが何だかピンク色に見える。
真っ青に晴れた空にパンみたいな雲が浮かんでいてその辺の山小屋にハイジが生息していそうだ。
「いい所ですね、でもいかにも佐倉が歩いていそうでやだな、会いたくない」
「サクラ?桜は歩いたりしないだろう」
訳がわからん、と関口は笑っていたが、説明する気は無いし、関口も聞いてこない。
アスファルトじゃない敷石の道は荷台の金具をガタガタと揺らす。
遠くに見えてきた美しい尖塔が多分目的地だ。
少し登ったら見えて、下ったら見えなくなる。
やがて遮るものが無くなると教会を見下ろすように突き出る小高い丘が見えてきた。そこを指して「あそこでいい」と水嶋が関口の肩に手を置いた。
「水嶋さん、まだ間に合います、教会まで行きませんか?」
「いいんだ、あそこでいい」
「でも……」
運転席の関口は何も言わない。
どうしたも、事情を説明しろも、それでいいのかも聞かない。何故こんな所まで来たのか知りたい筈なのに前しか見てない。
本当に……この人は人の心を読み取るのが抜群に上手い。「進むぞ」と一言言って丘の方にハンドルを切った。
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