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「うわあ、人形みたいですね、やっぱり……女優さんは綺麗ですね」
「出て3分で死ぬけどな」
「それも悪くないですよ」
「………そうだな」
水嶋はそう言ったきり黙ってしまった。
嬉しそうでもあり、寂しそうでもあり……見るからに切ない表情は……多分見てはいけない。
見ていたいけど、水嶋から視線を引き剥がし、遠くの幸せな光景を眺めた。
友梨は友達と写真を撮ったりブーケトスをしてはしゃいでる。一歩引いて友梨に寄り添っている花婿は見るからに優しそうで余計な心配はないみたいだ。
「あれ?」
何をどう感じたのか……恐ろしい二人の繋がり。随分離れているのに水嶋に気付いたのか、友梨がぴょんぴょんと跳ねながら手を振ってきた。
見ちゃいけないと思いつつ、水嶋を覗き見ると懐かしむような笑顔を浮かべているが手はポケットに入れたままだ。
「手を……振り返さなくて………いいんですか?友梨さん…気付いてますよ?」
「仕事を置いてまで見に来てやったんだ、もうそれで十分だろ」
「うん……」
降り頻る花吹雪の中、笑い転げる白い妖精は風に舞う白いベールが羽根のようだった。
夢のように綺麗で、無邪気で、可愛らしい。
降っても降っても絶える事のない舞い散る花びらは、この場面をピンクに染める。
もしこれが、古い記憶になってもピンク色が褪せる事は無いだろう。
「こんな所で見ているだけで……いいんですか?せめてもう少し近くに…」
「いいんだって、何を言えばいい?幸せになれとか今更気色悪いだろう、素っ裸でプールに入ってちんこ引っ張ったりする奴だぞ、それをくれとか言うんだぞ?今更丁寧な挨拶とか出来るかよ」
「出来ると思いますよ、大人でしょう」
「友梨のおばちゃんもおっちゃんもいるし…どうせ「あんた彼女は?結婚は?」とか聞かれそうで面倒だ」
「この際だから俺をフィアンセですって紹介してはどうでしょうか」
「アホ」
ピンク色をした華の舞い散る緑の中で、どうでもいいとか言いつつも水嶋は友梨から目を離さない。
ふと気が付けば
水嶋は小さなメロディを刻んでいた。
♪〜………
〜あなたは
私の
青春そのもの……。
「………水嶋……さん……」
俺は馬鹿だ。
自覚が無いなんてあるわけ無かった。
そんな事あるわけない。
思い込みの強さで、真面目過ぎる硬さで……
春も秋も冬も………友梨と二人ではしゃいだ眩い夏の日に、全てを置いてきたのだ。
友梨の為に……
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