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「何?………何だよ、お前泣いてんの?」
「だって……だって……」
いつもいつも……ずっと隣にいた相棒。
楽しい時も辛い時も笑って、喧嘩して、宿題を手伝って、手を引いて来た。
繋いだ小さな手と手は……
気付かれないように、振り返らないように、そっと離して背中を押した。
「なあ……」
「はい」
「友梨はさ……」
「はい」
「多分だけど俺の障がいを知ってるんだと思う」
「……はい」
「何回も倒れてるのに…あいつが何も聞いて来ないのは…変だろ?」
「………はい」
水嶋はこれかもずっと……キラキラと輝く光の中にいる友梨の背中を目を細めて見守るのだろう。
「水嶋さんは……馬鹿です」
「酷い事言うな」
「馬鹿です」
涙が溢れて止まらなかった。
感動したのか、水嶋の気持ちに被弾したのかもうわからない。泣けて泣けて……水嶋に抱きついたらもっと泣けた。
いつものように振り払わないんだね。
水嶋は優しい。
こんな風に友梨を包んでいたのだ……ずっと、ずっと……手を放してからも、ずっと。
落ちてくる涙は止まる事を知らず、喉がヒリヒリして胸が、肩が、腕が震える。
ギュッと細い肩を抱きしめると、水嶋は宥めるような声で小さく笑った。
「お前関係ないだろ、びっくりするわ」
「泣けない水嶋さんの代わりに泣いてるんです、止めようと思っても止まらないんです」
「相変わらずキモい奴だな、ポエム刻むな」
ヨシヨシと頭を撫でてくれるのは別の場面なら憤死する程嬉しいが、だんだん情けなくなってきた。
守りたいのに守られてばかり。
これからは任せてくださいと言いたいのに喉の奥が痛くて何も言えない。
そのまま泣いて、泣いて……
目が腫れて視界が狭くなる頃、招待客は散り始め、白い派手な車が滑り込んできた。
長いベールをヒラヒラとはためかせ、友梨は車に乗り込む手前でもう一度手を振って寄越した。
しかし、水嶋はやっぱり手を振り返したりはしない。
やがて美しい妖精は車の中に消えて、うねうねと曲線を描く美しい緑の中走り去ってしまう。
段々と遠くなり、小さくなって……
見えなくなった。
「……行っちゃいましたね」
「戻って来なきゃいいけどな」
「またそんな……」
「アホ、お前はあいつの事知らないから結婚式に拘ってんだよ、酷ければ明日にでも「旦那を殺すから手伝え」ってメールが来るぞ」
「その前に俺と結婚しときましょう」
「出来るかアホ」
「俺となら子供も出来ないし、やり放題ですよ」
「アホ」
「今日やりましょう」
「死ね」
「………さっき車の荷台でやりたそうだったじゃないですか」
「もう一回殴られたいらしいな」
山程の花びらを頭とか体にくっつけた水嶋はいつものようにちょっと間抜けで面白いが、やっぱりかっこいい。
取ってあげると言ったらまた目を閉じて待つのだろう。……だって誘ってる自覚ないから。
真面目すぎて間抜け。唐変木で不器用。生き方が下手。
でもそれが好きになった相手の
水嶋だ。
「さ、帰って仕事をするか」
「水嶋さんの為なら何でもします」
「じゃあ研究所に行ってくれ」
「それは嫌です」
「死ね」
歩けば桜の花びらが付いてくる。
一つ拾って……ポケットに入れた。
終わり。
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