幼馴染

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佐倉は何も答えず射抜くような目でこっちを見てる。 タバコに火をつけて温いウイスキーを一口煽った姿を見ているとカッコいい人だなって改めて思う。 長い沈黙が空気を圧迫してギャラリーの息を飲む音が聞こえてくる。 佐倉は長い煙を口から吐いて灰皿にタバコを押し付けると、やっと口を開いた。 「好きって……俺の前でよく言えるな」 「誰の前でも言えます」 「水嶋は困ってるんじゃないか?立場を利用してるのはお前の方だろ。前にお前が俺に言った事と同じだ」 「佐倉さんには悪いですがあの人は俺が貰います、何があっても引きません」 「いいから聞けよ。あいつは真面目でピュアだから後輩のお前を断れなくなってるんじゃないのか?ここは一旦引いて仕切り直した方がいい」 「嫌です、そんな暇無い。」 「お前……卑怯だと思わないのか?最初からそのつもりだったんだろ、だから俺を遠ざけて…」 「俺だってまだどうしてこんな事になってるかわかってない、もう振り回されてあたふたしてる途中なんです」 「振り回してんのはお前だろが!自分の都合よく動かしやがって!挙句果てに惚れただと?水嶋はなあ、ガラスの入れ物に入った極上の天然物だぞ?簡単に触んな!」 「あんたに関係無い!」 じわじわと加熱していく空気が暑い。 佐倉の挑発に乗っては駄目だと理性が告げてくるが止められない。 佐倉は馬鹿だ。ついでに言えば俺も馬鹿。 とっくに決は出ているのに、こんな所で所有権を言い争って何になる。 それでも諦めたりは出来ない、納得したりは出来ないのだ。 「俺達の事にはもう口出ししないでください、あんたはあんたで勝手にすればいい、俺は負けない自信があります」 「……関係ないだと?関係あるだろ」 「選ぶのは俺でもあんたでも無い」 「お前……無理矢理キスしてたな、その後泊まり込んで…何してた」 行為に何の意味がある。 それは佐倉だってわかってる筈。 カアッと頭に血が上って訳が分からなくなった。 「どこまで何をした、お前…まさか?」 「ああ、やったよ、全部やった」 「何だと…貴様…」 「一回寝ただけだ!ああ!あんたの言う通りあの人はガラスの入れもんに入ってるからな!半ば無理矢理だった!心をくれたりしてない!」 「っっ!!」 突然キレた佐倉は重量級だ。 「殺す」とテーブルごと飛びかかってきた佐倉と囃し立てる他の客、グラスが壊れて飛び散り、ボコボコ当たる拳や足が誰の物なのかもうわからない。 狭い店の中で椅子やコケたテーブルに塗れて挙げた拳がどこに当たっているのかわからなかったが、痛く無いのだ、もう好きだ好きだってそれしか出てこない。 強力なライバルを知ったからじゃない。 佐倉の再アタックも怖くない。 水嶋が振り向いて笑ってくれる日が来るなんて甘い期待もしてない。 だから、一方通行でも何でも好きでいる事くらい許してくれ 恥ずかしいくらい好きだと叫んだ。 スーパーインドアだった人生でまともな喧嘩なんかした事ないのに、何をやってるんだかわからないまま、やけくそで暴れて暴れて…… 気が付けば並べた椅子の上で伸びていた。
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