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水嶋さん
角のある波なんて無かった。
どこまでも凪いだ水面は穏やかに揺れているだけだ。そこに突然落ちてきた小さな水滴。
然程揺らぐ事など無かった筈が、輪になって幾重にも盛り上がったなだらかな波紋は広がって……
広がって、溶けて見えなくなった。
足元で跳ねる雨粒がズボンの裾を濡らしていた。
ビルの壁面に張り付いた大型の液晶が雨に烟って滲んでいる。
画面いっぱいの大写しになっているのは女優かタレントか、よく知らない芸能人だ。頬を染め、はにかみながら大きな石の付いた指輪を見せている。どこかの金持ち青年実業家と結婚が決まったらしい。
瞬くフラッシュの中でインタビューを受けていた。
「今あなたの人生は何色ですか?」
記者の発したどうでもいい質問に「薔薇色です」と答えている。
「なあ…薔薇色って何色だ?薔薇って赤も黄色もピンクも紫もあるだろう」
「そんな直接的な意味じゃ無いと思うんですけどね」
「何でだよ、色を聞かれたんなら色を言えよ」
「まあ…いいじゃないですか、どうせ俺たちに関係ないし、色番を調べろなんて言われませんよ」
「言えば調べてやるのに…」
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