出張2

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出張2

平日だからなのか、だだっ広いサービスエリアの駐車場は大型トラックや社名の入った車が並んでいる。忙しなくエンジンがかかったままの車が多い。 停める所は幾らでもあるのに、店舗やトイレのあるエリアに集中して混み合っているのは何故だろうと思いつつ、やっぱり店舗前の車列の横に「奥田製薬」と小さなマーキングがあるプリウスを加えた。 車を降りた水嶋は「何でもいいから好きな物買って来い」と言って伸びをしている。 「()いてますね、何だか歩いてる人がいかついおっさんばっかり……俺が高速に乗る時って休みの日が多いんで風景が違います」 「そうか?俺は仕事でしかこんなとこ来ないからこんなもんだ」 うん、水嶋は遊びで出掛けたりしないって知ってる。でも、知る限りだが一泊出張とかどこかに行ったとかは聞いたのは今回が初めてだった。 ……弾丸で行って弾丸で帰ってなければだけど。 「出張ってちょくちょくあるんですか?、俺は初めてです」 「お前らが一人で行って何が出来るんだアホ、最近は大阪に支社を作ったからあんまり無いんだよ、前は週に一度くらいは関西に行ってたぞ」 「水嶋さん、ほら色々ありますよ、何を食べます?選んでください」 「おい?江越!話しかけといて何だお前」 「おやつも買いましょう、お焼きもいいですね」 「聞けよ……」 聞くか。 せっかくだから仕事モードは封印して貰う。 この旅行は確かに仕事なのだが少しだけでも頭を切り替えて楽しんで欲しいのだ。 仕事の先導は出来ないが遊び(そう決めた)の先導はこっちでする。先に行くと「ゆっくりする暇はないぞ」と言いながらも付いて来てくれるのが水嶋なのだ。 不機嫌そうに振舞っているのは照れか防御で何気にフェミニストでもある。 それがどこで培われたかは置いといて、高菜のお焼きを二つ注文すると……ほら、後ろからお金が出て来た。 こんな時の水嶋はほんのりと甘い。 奢ってやってる感は無く"何でも好きなものを食え"って感じは懐の深い彼氏そのものなのだ。女子なら速攻惚れる。 女子じゃなくても惚れてる。 水嶋の持つ包容力がほぼ透明で良かったと思う、もし誰にでも見える物なら今頃はもっと水嶋に相応しい誰かに(つまり女子)盗られていた。 「振り回してんのはお前だ」と佐倉に言われたが確かにそうだと思う。 勝手に好きになって勝手に暴走して勝手に嫉妬したり暴発したり悔やんだり。 何だかんだと制御不能の悪あがきに付き合ってくれている。水嶋は流され上手なのだ。 おやきの隣にあった揚げ餅のブースを覗くとやれやれって感じで止めたりはしない。二つ注文するとまた払ってくれた。 ついつい我儘を言いたくなるよな? 包容力とはその人に嫌われる不安を持たせないって事だと思う。 寝込みを襲ってさえ、嫌われたりしないと思えるのだから水嶋は凄いのだ。 「美味しそうですね、じゃあご飯食べましょうか」 「え?車の中で食わないのか?まだ元気なうちにちょっとでも走った方が楽なんじゃ無いか?」 「だからこれはおやつです、昼をちゃんと取れるかわからないから米を食べましょう、何にします?」 「はい、水嶋です。」 「…………」 楽しいのに……電話が邪魔だ。 三千円をポイっと渡されたのは朝飯を勝手に選べって事だ。水嶋の好みはもう分かっている、五目ご飯のおにぎりとうどんを2つ買ってから電話をしている水嶋の元に運んだ。
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