ゲイの憂鬱

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ゲイの憂鬱

ゲイバーとは……… ゲイが集まる憩いの場所であるべきだ。 …そう吐き捨てて、蹴散らしたい思いをグッと抑えた高梨は、クスクスコショコショうるさい女子の集団に背中を向けて、カウンターに置いた薄い烏龍ハイを胸に抱き込んだ。 この店を見つけたのは、大学時代に付き合っていた上級生と別れた後……極上の隠れ家だった。 儲けに興味の無い店長はやたらと料理に凝っており、一般な店と比べても良質のダイニングバーだと思う。何を食べても味は極上な上料金も安い。 男だけしか入店出来ないなんて狭い決まりは無いが、料理を楽しむ為でも無く、勿論ゲイじゃ無い女子にはきて欲しく無い。近頃の流行りに乗って興味本意でゲイの生態を観察に来る女子が増えているのだ。 漏れ聞こえる話声は聞きたくなくても耳に入ってしまう。 ゲイは優しい?親友にするには一番? ふざけるな。 悪い奴、馬鹿な奴、酷薄な奴……そしていい奴は老若男女平等且つ均等に分布してる。 優しげな顔をして近づく男にほいほいついて行ってヤラれて来い。BLなんてファンタジーだって思い知る。 超のつく金持ちで一途に想ってくれて何でもしてくれるレア物、好物件がこの世界のどこに落ちてる。会えばセックス、顔を見ればセックス、ストーカー並みに付き纏い、何をしてても、危険が及べば上手い事現れるのは始終ほぼ監視してるのかっての。現実だったら即警察に飛び込むぞ。 「消したい……」 うっかりと「お気に入り」をぽっちりした数々のBL小説と電子コミックの山は……読むとムカつくのにコレクションが増えていく。 馬鹿らしいのに…低俗だと吐き捨てたいのに……愚かにも新刊とかの更新を待ってる。 「クソ……腐ってる」 世の中全てが腐りきってる。 烏龍ハイが薄いのは酔うと漸く保ってる自我が崩壊しそうで怖いから店長に頼んでる物だが…… 俺の体調見てちょっとは気を効かせて調節しろよな、だから料理の腕があるにも関わらずこんなしがない店で細々と地味に営業してる。 どいつもこいつも常連も冷やかしも俺も馬鹿。 「うう……マイナス思考に殺される……」 イライラの原因はわかってる。 最後に飲んだ夜、喧嘩別れのようになって以来江越と連絡が取れないでいた。 あの飲み屋での会話を誰かが聞いていたら……どんな奴だって絶対涙すると思う。それこそ小説にでも書く。 "高梨がゲイ"だと江越だけが知らなかったのは、周りがみんな俺が江越を好きだと知っていたから面白がっての事だ。 何度も何度も、事ある度に「友達」だと間接的にフラれ続けて今に至ってる。 江越は江越で彼女は作らないし、「高梨が一番」と甘噛みをしてくるから始末が悪い。何度も空振りを食らわされ、いっそ食いちぎってくれと何度喚きそうになったかわからない。 江越に近付く女子を姑息に…計画的に追い払ったりはしたが(我ながら黒歴史)江越と付き合える日が来るなんて甘い期待は最初からしてない。 江越はいつでも何かに夢中になってそこしか見ないガキみたいな奴だ。大らかで面倒見が良くて、波長が合うのか一日中、一年中一緒にいても飽きなかった。 愚痴を聞かせて悪いなって江越は謝るが、愚痴さえも湿った所がなく十分楽しませて貰った。 古いホームドラマのような人生観、生命保険の下りでは笑いを堪えるのに忙しくて後半は聞いてない。 お前にそんな未来は来ないと断言したかった。 側にいてくれるだけでいい。 それなのに、社会人になってからも毎週、開いても隔週で会っていたのに連絡が付かない。 勿論それは喧嘩のせいじゃ無いとわかってる。 江越は基本穏やかで本気で怒ったのは一回きりだ。 それは忘れもしない一回の後期試験中。 江越が作った「水槽で猫を飼う」って謎のソフトを預かり、半日放置したら猫のミーちゃんが溺れて死んだ。 リセットすれば戻るのに…スキルが積み上がる訳でも無いのに泣くか? しかし、その喧嘩さえ半日ほどブスくれていただけで直ぐに側に寄ってきた。 連絡が付かないのは……どうやら江越は噂のクソ会社に振り回されているか……また何かに夢中になってるって事だ。 真っ直ぐなのはいいが融通が効かない。 まだ社会規範が無い為、遠慮しない少年みたいにきっぱりした所とお人好しな所。思い込んだら一途な所は、持って行き用では使い勝手が良くて利用されやすいのだ。つまり、今いる会社は江越に似合ってないと思う。 その江越が…… 何故かここに……ゲイの集まるバーで高級感のあるイケメンと睨み合っている。
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