加速開始

2/4
前へ
/10ページ
次へ
 彼に対峙するかのように、影が収束し始める。やがて影は3mほどの巨大なカマキリのような形にまとまった。 《邪魔者、やっと、イプシロンを、みつけた、のに》  ノイズ混じりに、大人とも子供とも、男とも女ともつかない声でカマキリは憤りながら、少年に踏切バーほどの鎌を振り落とした。 「ああ、俺も同じこと思ってたよ。奇遇だな!」  彼は横に軽く飛んで鎌を躱すと、カマキリに向かって走り出した。一歩、二歩、三歩――歩幅が蹴り出す度に伸びていく。新幹線みたいなスピードだ。あっという間に懐に潜り込んだ彼は、スピードを生かしたままカマキリの腹に拳を突き刺した。 《あ゛、ァッ》  断末魔を上げてカマキリは放物線を描く。踏切の中ほどで線路に叩きつけられたようだ。小さな地震がカマキリの重さを屋根の上の私に伝える。 「すまねえけど、俺は強いんだ」  ラストスパートと言わんばかりに彼は再びカマキリに向かって加速していく。なんだろう、嫌な予感がする。朝起きた時からずっと続いていた頭痛がぶり返して、私は思わず頭を抱えた。脳内に断片的なイメージが流れてくる。  無数の触手。   傷だらけの腕が黒の中に沈んでいく。  ああ、さっきまでのは、演出だったのか。   そしてこれは――   ――罠。 「下がって!!!!!!!」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加