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彼に対峙するかのように、影が収束し始める。やがて影は3mほどの巨大なカマキリのような形にまとまった。
《邪魔者、やっと、イプシロンを、みつけた、のに》
ノイズ混じりに、大人とも子供とも、男とも女ともつかない声でカマキリは憤りながら、少年に踏切バーほどの鎌を振り落とした。
「ああ、俺も同じこと思ってたよ。奇遇だな!」
彼は横に軽く飛んで鎌を躱すと、カマキリに向かって走り出した。一歩、二歩、三歩――歩幅が蹴り出す度に伸びていく。新幹線みたいなスピードだ。あっという間に懐に潜り込んだ彼は、スピードを生かしたままカマキリの腹に拳を突き刺した。
《あ゛、ァッ》
断末魔を上げてカマキリは放物線を描く。踏切の中ほどで線路に叩きつけられたようだ。小さな地震がカマキリの重さを屋根の上の私に伝える。
「すまねえけど、俺は強いんだ」
ラストスパートと言わんばかりに彼は再びカマキリに向かって加速していく。なんだろう、嫌な予感がする。朝起きた時からずっと続いていた頭痛がぶり返して、私は思わず頭を抱えた。脳内に断片的なイメージが流れてくる。
無数の触手。
傷だらけの腕が黒の中に沈んでいく。
ああ、さっきまでのは、演出だったのか。
そしてこれは――
――罠。
「下がって!!!!!!!」
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