白い魔力

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白い魔力

「うっ、くっさ」  チヨリは異臭で目が覚めた。目を開けても暗闇でどこにいるのか全く分からない。ただ不快な臭いはする。血と肉の、それだ。 「どこだよ、ここ」  手探りで起き上がると、頭がズキズキする。しばらくぼうっとしていたが、倒れる前の記憶が頭に浮かんだ。 「ーー、父さんっ」  父はどうしただろう。あのリアナという女は父を欲しがっていた。それにーー。 (父さんが、魔力アンドロイドだったなんて)  確かに父は老けなかった。チヨリがうんと小さい頃は、チヨリよりずっと大きかった。それでも、確かに兄弟と間違われることが多かった気がする。 (父子も、間違いだったのか)  チヨリの知らぬ間に、魔力燃料を買っていたのだろうか。何故、父のふりをしていたのだろうか。何もかもわからなかった。 (どうしよう。ここはどこだろう。臭いがひどい。ここから出たい)  体を拘束されてはいないようだ。チヨリは手探りで移動し始めた。時折ざわりとする感触のものに手があたる。湿ってぬめりのあるものや、毛のような柔らかそうなものまで。 (うげぇぇぇ。何だよ、ここぉ。嫌な気配もする。きんもちわりぃ)  チヨリはえづきながら、なんとか前へ進む。また毛のようなものに触れた時だった。転びそうになり、思わずその毛を掴んでしまった。 「いでっ」 「きゃっ!? な、なに!?」  チヨリはそれから手を離した。見えないが、何かいる。 「お、その声は、お嬢ちゃんか?」 「ポーノ、さん?」  全く見えないが、どうやらすぐそこに、白犬のポーノがいるらしい。 「どうしてここに?」 「それはこちらのセリフじゃ」 「僕はーー、わからないんだ。夕食の後、変な煙をすわされてーー」 「毒薬か」  ポーノはふん、と鼻を鳴らす。 「さっき男性型のアンドロイドが来て、ここになにかを無造作に放り投げていったんじゃ。おそらくそれがお嬢ちゃんだったんかな。何にしろ、殺されないで良かったな」 「ころっ!? まさか、そこまで」 「いや、あの女はそこまでやるよ。ワシも拷問されたもん」 「えっ!? な、なんで!?」 「なんでかのう」  チヨリの問いに、ポーノはとぼけたように答えた。 「アンドロイドとは言え、そんな、虐待するなんてーーポーノさん、一緒にここを出よう。父さんも捕まっているから、助けないと。 この部屋は、すごく嫌な感じがするし」 「どんな」 「たくさんの、死の匂いがする」  ほう、ポーノは感心する。リアナはここで、死体を解体していたと言っていた。その残った気配を、チヨリは感じ取ることが出来るようだ。 (無意識に魔力でこの場所を探っとるんじゃ。大したもんじゃの)  チヨリは探り探り、立ち上がってみた。体中痛みがあるが、動けそうだ。 「特に僕は拘束されてないから動けるけど、ポーノさんは?」 「魔力切れで動けんじゃってば。お嬢ちゃんの魔力をくれんかのう」 「そんなことを言われても、僕にはそんな力は」  ポーノはさて、と考えた。 (無意識には使っているようなんだがのう。どうにか、お嬢ちゃんの意思で出来ないもんか) 「ほら、お嬢ちゃんと一緒にいたお友達のアンドロイド。あの子に使うみたいにやってくれれば」 「ポーノさんも、父さんがアンドロイドだって、気付いていたの?」  チヨリの呼ぶ父さん、があの少年型アンドロイドであると察するのにポーノは少々時間を要した。 「父さんって、あのアンドロイドのことか? あれにも、無意識に魔力を注いどったんか!?」  ポーノの言葉に、チヨリは改めて認めざるを得なかった。 「そうか、やっぱりーー本当に、アンドロイドなんだね。父さんは」  ポーノは諭すように言う。 「食べ物だって、飲み物だって、摂っていなかった筈だ。彼が魔力切れを起こすことはなかったのかね?」  チヨリは日常の記憶をたぐり寄せた。 「うーん、元気がない時ってこと? それはあったよ。父さんは人前で食事をしないから。でも、いつの間にか元気になってる。僕がーー」  チヨリは右手を上げた。目の前に父の体を思い浮かべる。  そう、いつも。 「こう、撫でたんだ。元気になりますようにって、そうすると、父さんは食事を取りに行くって、僕の前から姿を消して」  チヨリはぞくぞくした。  意識してやったのは、初めてだった。 「なに、これ」  チヨリの手から、体から、白い光が溢れ出した。糸を引くように、それは上へと上がっていく。天井までとどくと、花や星や色々なものに変化した。鳥や馬などの動物も現れる。 「あっ」  一際大きな馬が現れると、チヨリは一目でアーノルドだと気付いた。 「アーノ」  名を呼ぶと、アーノルドはその瞳を細め、優しくチヨリを見つめた。 「ごめんね、アーノ」  ひひん、小さく鳴くと、アーノルドは部屋の中をかけ、天井を抜け消えた。チヨリはそれを見送った。 「すごい、すごいぞ、お嬢ちゃん! 力が湧いてくるようじゃ」  ポーノは興奮した。この白色は、魔力の中で最も強い色だ。 「お嬢ちゃん、名前は?」 「え? チヨリ」 「チヨリか! 今からあんたがワシのマスターじゃぁ!」  カタカタ!  部屋中から音が聞こえる。ポーノ以外の何かにも、チヨリは力を与えたようだ。 「な、なに?」  戸惑うチヨリにポーノが答える。 「あのお嬢さんのおもちゃ共じゃな。アンドロイドがと捕まったと、言っとったな。いっちょ、奪還に繰り出そうではないか、チヨリ!」
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