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そんな瞳で見ないで
リアナは少年型アンドロイドを見下ろしていた。重厚な深みのある真紅のソファに座らせていた。真っ黒な髪に、茶褐色の瞳。この辺りではあまり見かけないデザインだ。リセットボタンを押したので、シャットダウンしたままだ。
「壊すのは勿体ないですけれど、仕方ありませんわね。兄も私も、魔力アンドロイドが嫌いですから」
確認するように、口にする。
本来であれば、彼も最初からないしょの部屋へ運ぶべきだった。壊すだけなのだから。
兄がしたように、リアナはそうしなかった。魔力アンドロイドを手に入れても、いつも自室に運んで、とっくりと眺めてから手にかける。
「使い捨てならまだ良い。生きている人間の働き口を奪ったり、家族のようなフリをする奴らは反吐が出るよ」
兄はそう言って、他の家のアンドロイドを盗んだり、貰ってきては壊していた。
「ほら見ろ、リアナ。いくら人間のフリをしたところで、中身はただの金属の塊だ」
壊すときの兄は、楽しそうだった。リアナは手伝いながらも、本当は酷く残念に思っていた。
ー私なら、私なら、動かしてあげられるのに。
「リアナ様」
声をかけられ、リアナはその手を止めた。少年型アンドロイドに触れようとしていた。透き通るような肌のそれは、とても美しかった。
リアナは声のした方に振り向く。無表情な、男性アンドロイドが立っていた。
「あの少女を、部屋に入れておきました。そのアンドロイドもお運びしましょうか?」
男性アンドロイドの問いに、リアナは微笑んだ。
「そうね。お願いしようかしら」
彼は、唯一兄が所持を許した魔力アンドロイドだった。髪は深い青色で、肌の色は褐色だ。髪と同じ色の目は細長く、鼻の形は良いが、高くはない。眉は細く弧の形を描き、穏やかそうな印象である。唇は薄い。
パッとしない薄い印象の顔つきだ。
(この子は、兄がどこからか調達してきた。不思議なアンドロイドよね。背や髪が伸びるのだから)
男性アンドロイドはリアナの言うことに忠実だし、魔力燃料の補給も自分で街中に降りて行ってくる。便利で手間いらずだ。
男性アンドロイドは、少年型を抱えて歩き出す。リアナもあとにならう。
リアナは前を歩く男性アンドロイドの背中に声をかけた。
「あの少女は死んでいましたか?」
「私があの部屋に置いた時には、まだ息はしているようでした」
「そう」
リアナは目を伏せた。
本当は殺さなくとも良かった。この少年型アンドロイドを譲ってくれれば。
兄が死んでしまって、リアナは本当のスペアになってしまった。スペアとして、過ごさないといけない。
魔力アンドロイドを壊したり、兄がいつか継ぐ筈だったこの屋敷で過ごしたり。
(ほんとう?)
頭の片隅で、小さな声がする。
(ほんとうに? もう、兄さんに怯えることもないのに、まだ兄さんと同じように過ごすの?)
リアナは眉をひそめた。頭が痛い。
「悪いけど、その子を部屋に運んで置いて。休んでから、私は後から行くわ」
男性アンドロイドが振り返る。深い青が、リアナを捉えた。
「大丈夫ですか?」
「はっ?」
リアナは、ポカンと男性アンドロイドを見た。途端に、ワナワナと、口が震えるのを感じた。
彼の、その瞳に、リアナを気遣う色を見たからだ。
「そんな、フリをしないで。あなたは、いつも無表情で無感情だから、それを気に入って兄は残したのよ。壊さなかったのよ」
男性アンドロイドは、目を伏せた。迷うように、視線を揺らす。
「しかし、リアナ様。もう、グラン様はーー」
「今じゃ! かかれぇぇ!」
しわがれ声がして、リアナは背後から押し倒された。突然のことに受け身も取れず、ただ床に押し付けられた。
「な、なに!?」
「リアナ様!!」
男性アンドロイドが叫ぶ声が聞こえる。リアナは倒れた際にしたたかに頭をぶつけたらしく、激しい痛みの後、気を失った。
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