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「お嬢ちゃん、かわいい魔力のお嬢ちゃん。ワシに魔力を分けてくれんか?」
チヨリは眉をひそめる。
「魔力?」
「この体は犬型魔力アンドロイドなんじゃ。餌もいらない、散歩もいらない、フンもしない、しかも喋る、で一昔前流行ったんじゃよ。魔力が足りなくてここから動けんのじゃ」
話し方は老人のようだが、声色は少年のような幼いものだ。
「な、何を言ってるのか、よくわからない」
「奥の部屋から死臭がするじゃろ? あれ、ワシの血なんじゃ。数日前、ワシは殺されてしまったのだけど、どうにか魔力と記憶を中古の犬型魔力アンドロイドに入れることに成功したんじゃ。オカルトだと思っとったけど、まさかこんなに上手くいくとは。じゃがここから移動する分の魔力がなくてな。お嬢ちゃん分けてくれんか? 金目になりそうなもの持って行って良いから」
「ーー僕は、魔力なんて持ってない」
チヨリが言うと、白い犬、ポーノは首を傾げた。
「はて? おかしいな。お嬢ちゃんからは魔力の匂いがする」
「チヨリ、まだなのか?」
外から父親の声がする。チヨリは慌ててポーノを抱えた。ポーノが吠える。
「お嬢ちゃん、何する!?」
「この中でも金目の物っていったらあんたしかいない」
「ワシを売る気か!? 勘弁してくれ。ワシには行かなくちゃいけないところがあるんじゃぁ」
ポーノの叫びも虚しく、チヨリは外に出ると荷車の中にぐったりした白い犬型アンドロイドを積んだ。父に、これが一番お金になりそうなものだと説明した。
「犬型か、最近は魔力不足だから、娯楽用の魔力道具は売れるかどうか」
難しい顔をする父に、チヨリは笑顔で言った。
「金持ちに売りに行こうよ。この犬自体でなく、犬の部品目的に高く売れるかも」
勘弁してー、荷台から悲しげな遠吠えが聞こえた。
父子が向かったのは、C市で富裕層が住む丘の上だった。丘の下の家とは異なり、作り構えからして高級であることが分かる。
「家がでっかいね、父さん」
馬車で高級街を通る姿は目立つ。富裕層は、最近一般向けに販売された車という乗り物を使っているのだ。鉄の塊が、走ってくる。馬車とぶつかりそうになるたびに、クラクションを鳴らされる。
「危ないのはあっちじゃないか! 失礼なやつら」
チヨリは腹を立てながらも、冷静に人の気配を探った。
(犬型の魔力アンドロイドを買ってくれそうな人、アンドロイド関係の部品を欲しがっている人)
しばらく歩くと家と家との間隔が広くなって来た。段々と森の中へ入っていくようだった。
引き返そうかとも考えた時、開けた場所に出た。森に囲まれたその場所で、大きな門とその先の白い豪邸が目に入った。チヨリはピンときた。
このお宅は、アンドロイドを欲しがっている。
「こんにちはー」
チヨリが声をかけるが、広大な敷地だ。反応はない。
「こんな大きなお宅、いきなり伺っても商売は難しいんじゃないか?」
「大丈夫だよ、父さん、見てて」
チヨリは念じた。誰か、お屋敷の誰かが、こちらに来ますように。
「どなたですか?」
小さな、声がした。見れば、大きな門の内側に女の人が立っていた。
「こんにちは、旅商人をしているのですが、ぜひこのお屋敷の方にお見せしたいものがございましてーー、今日はご主人は在宅ですか?」
チヨリが聞くと、女性は戸惑いながら答えた。
「この屋敷の当主は、私です」
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