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リアナ
チヨリと父は、女当主に屋敷の中に案内された。通されたのは立派な大広間。三十人くらい入れそうだとチヨリは思った。
女当主は名前をリアナと言った。
リアナはどんなに見積もっても、二十代前半くらいにしか見えない。髪の色は綺麗な銀色で、目は燃えるように紅い。美しいが、冷たさを感じる。
「何か?」
チヨリの視線に気付いたのだろう。リアナは上品に首を傾げ微笑んだ。
「随分、お若い当主さんだなぁと、思いまして。それに女性というのも珍しい」
率直なチヨリの言葉に、リアナは声を出し笑う。
「ふふふ。実は先日不幸があって、跡取りになるはずだった兄が亡くなったのです」
チヨリは一瞬言葉に詰まった。
「あ、そ、そうなのですか」
「すみません、プライベートな話を。それで? 私に見せたい商品とは?」
気を取り直すように、チヨリは笑顔を作った。
「こちらです。マダム、犬型の魔力アンドロイドです。名前はポーノと言います」
チヨリは段ボールに入れていた白い犬型魔力アンドロイドを取り出した。
「まぁ、可愛らしい」
「ありがとです。マダム」
犬が喋ったので、リアナは目を丸めた。
「まぁ、お話までするのね。気に入ったわ」
「ご希望とあらば、初期設定に戻します」
チヨリの言葉に、ポーノはキャンキャン吠えた。
「初期設定!? 冗談じゃない。勘弁してくれよ。せっかく記憶を定着させたのに」
リアナの瞳が、今度は細くなる。
「記憶の定着? どういうことかしら?」
チヨリはあたふたと答える。
「あー、いえいえ、そのー、前の持ち主の記憶があるみたいなんです。初期設定に戻しますから大丈夫です」
「お嬢ちゃん! 冗談はよしてくれ! ワシには行かなくちゃいけないところがあるんじゃ。いっちゃんに、あの軍人のことを教えないと」
リアナはじ、とポーノを見据えた。その視線に、ポーノは黙った。
「チヨリさん、と言いましたよね? 良いですよ、チヨリさん。私こちらの商品を購入いたしますわ」
「へっ? ありがとうございます!」
「いやいや、ワシは売り物じゃないぞ!」
叫びながらも、ポーノは魔力切れで体が動かず逃げられない。
チヨリが代金を告げると、リアナはチップだと言い大目の金額を渡してくれた。チヨリは喜び、ポーノを彼女へ渡した。ポーノはしばらくキャンキャン吠えていたが、段ボールに入れて蓋をじてしまうとやがて静かになった。
「うちでも、人ではなく魔力アンドロイドを召使として使ってますのよ。魔力燃料は高価ですが、人間を使うより仕事が正確ですからね」
「そうなのですか」
たしかに、こんなに大きなお屋敷なのに、チヨリにはリアナ以外の人間の気配を感じない。アンドロイドの使用も必要最低限なのか、特に庭や広間に行くまでの家の中で見かけることはなかった。
「よろしければ今夜は泊まっていかれませんか?」
リアナの唐突な提案に、チヨリは目を丸めた。
「え?」
リアナは警戒を解くように、上品に微笑んだ。
「兄が亡くなってーー両親もいませんので、私一人暮らしで退屈ですの。旅のお話を聞きたいですわ」
今日の売り上げはポーノを売った分だけだ。宿代も馬鹿にならないので、街の外に出て野宿も考えていたところで、正直言えば有難い。
「良いです、是非。ね、父さん」
チヨリは隣に座る父の顔を覗き込む。父は頷いた。
「父さん?」
「あ、はい。父なんです」
リアナは父をまじまじと見る。
「そうでしたか。是非、お父様からもお話聞きたいですわ」
リアナは父子に優しく微笑んだ。
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