双子の王子の話

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双子の王子の話

「これは、ある街に行った時に、そこの住民に聞いた話です」  その街はかの国の首都でした。  そこにはかの国のお城があります。王族の住むお城です。  ある時、そのお城に待望の王の赤ちゃんが産まれました。王の赤ちゃんですから、後継ですね。  しかし、産まれてから、ある問題が発覚しました。 「まぁ、問題って何かしら?」  リアナの問いに、チヨリは微笑んだ。 「生まれた子どもは、双子だったのです」  リアナは首をかしげる。 「双子のどこがいけないのかしら? 子供の少ないこの時代、多く生まれることは良いことのように思えますがね」 「そうですね。王位継承がない一般家庭のお話でしたら、とても良いことだったでしょう」  現在ではあまりそういった風習も薄れて来てはいますが、昔から双子は不吉だと考える街はあったようです。  ある街では、二人以上産むことは家畜と同じだから、人間ではなく畜生だと例えられたとか。またある街では身分による差別がひどく、身分違いのカップルたちの心中が流行っていました。そんな時に男女の双子を産みますと、生前心中したカップルの生まれ変わりだとか。とにかく双子は不吉なので、どちらかを養子にやったり、産まれたばかりで絞めてしまうこともあったようです。そのまま双子をどちらも育てると、どちらかが気が触れて、一族を破滅に追い込むとか。  どれも根も葉もない、オカルト話です。しかし、大抵の人間は子供を一人ずつ産みますから、二人以上を同時に産むということは「特別」でした。人間は自分と異なるものを嫌いますから、差別の対象にされやすかったのでしょう。  さて、話を元に戻しましょう。  王は双子が産まれたことについて悩みました。王族や近しい家臣には保守的で懐古的な考えのものも多く、昔からの言い伝えにも熱心でした。  かの国の首都であるその街には、次のような言い伝えがありました。  双子が産まれれば、後から産まれた子供を王自ら殺さなければならない。  王位継承の際に争いの火種を潰すための考えでした。兄弟でなく、同時に産まれた双子であれば、争いが起こる可能性が高くなると言うことです。 「王様はどうしたのかしら?」  本来であれば、言い伝えに従い後に産まれた子どもを殺すべきでした。愛しい我が子であっても。言い伝えが迷信に過ぎなくとも。それが(まつりごと)というものです。  家臣やその街で一番偉い祭司にも、そう言い含められていました。  双子が産まれてから二週間後、王は後から産まれた子どもの首を絞めました。そして、先に産まれた子どもを後継として育て始めました。  しかし、その時の王は情に厚く、優しい男でした。その優しさ故に、とうとう王は子どもを殺さなかったのです。  顔がわからぬよう幼い子どもに仮面をつけ、一体の魔力アンドロイドと共に城の地下に幽閉したのです。子どもを殺さなかった王は、一生閉じ込めておくつもりでした。  それが優しさと呼べますでしょうか。より残酷と呼ぶべきでしょう。  催し事で民が城へ行くと、時折王の地下から悲しげな呻き声が聞こえてくる、との噂があったそうです。それは獣のもののようであった、と。  チヨリの話はそこで終わりらしかった。話をしたチヨリは喉が渇き、ペリエを口に含んだ。 「酷い話。昔のお話ですので仕方がありませんが、非人道的ですわ」  チヨリはグラスをテーブルに置いた。 「戦争が始まった時のことは覚えていらっしゃいますか? 暦896年のことでしたね。その原因はご存知で?」 「かの国から独立を図った、木の街との戦いだったでしょう。当時はT市でしたか。戦争の終結のため、かの国はT市の連合軍に一部の独立的権限を与えたはずです」  どこかの国に属していれば市、独立すれば市は街となる。 「そうですね。その、T市をけしかけたのが、幽閉から逃げ出した双子の弟王子ではないかとの噂なんですよ。T市の長が仮面をつけていて、それがかの国の首都で使われているものに似ていた、とか」 「まぁ」  リアナは口元を抑えた。 「随分前のお話かと思って聞いていましたが、そうしますとそんなに前のことではないのね」 「そうですね」  チヨリは椅子に座り直す。しばらく沈黙が流れる。 「ところで」  リアナが口を開く。 「いつ、私が双子だと気付いたのかしら?」 「へ」  チヨリは首を傾げた。 「あら、双子だとわかってワザとそれにちなんだお話をされたのかと思いました」 「い、いぃえぇ! 滅相も。双子だなんてわかり得ませんでした。もし、リアナ様が双子だと知っていたら、こんな不吉なお話していません!」 「あらそう?」  チヨリは気まずくなり、顔を下げた。 (まずいなぁ。面白がると思った話がコレだったんだよなぁ。馬はいなくなるし、今日はトコトンついてないなぁ)  男性アンドロイドがメインと思われる、肉を持ってきた。チヨリの意識は途端にそちらへ向けられる。  肉の焼けた、いい匂いが広がる。 「わぁ、美味しそう」 「今日仕入れたばかりの新鮮なお肉ですのよ」  チヨリはにこにこしながら、ナイフを自分の分の肉に刺す。切ると、中は生のようで、軽く炙っただけのようだ。 「新鮮ですので、よく焼かなくとも大丈夫ですの」  戸惑っているチヨリの様子に、リアナはそう優しく声をかけた。 (へー、そうなんだ。よっぽど新鮮なんだなあ)  口に含むと、しっかりした赤肉といった感じで美味しい。よく噛んで味わって食べる。久方ぶりの肉だった。 「とっても、新鮮ですわ。何しろ、先ほどまで生きてましたもの」  内緒話のように囁くリアナの声は、チヨリには聞こえなかった。  
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