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「明日の、こどもの日って、ボクの誕生日でもあるんだよ」
宏が、近所の友達の飛鳥クンに言うと、
「それは分かってるけど……」
東京の北西に位置する街の一角に、山下家の住まいはあった。
その主人の厚志は、関東で五本の指に入るIT企業で、企画部の係長をしていた。
彼の家族は、妻のミズキと長男の宏の3人だった。
また彼の住まいは三階建の立派な邸宅で、一階には食堂・夫婦の部屋・リビングがあり、二階は宏の部屋で、三階は厚志の書斎となっていた。
数日後、宏の10歳の誕生日――ということで、ミズキの提案から、近所の友達を招待して、ちょっとしたパーティーを催すことになった。
が、どの家庭も3日から旅行に行くということで、結局、パーティーは中止となった。
ちなみに山下家では、厚志の仕事の都合で、旅行に行く予定はなかった。
とはいえミズキは昼食、宏のために大好きなオムライスを作ろうとルンルン気分で頑張っていた。
さらに夕食は、近所のファミレスに行くことになっていた。
そんな中で、厚志だけは少々複雑な気分だった。
というのも、その日は元々出勤日だったのだが、近所の子供たちが来て色々と大変なので……という理由で有給休暇を当てていて、その時の状況をスマホで撮って、後で部長に見せることになっていたのだった。
だから厚志は、
――仕方ないから、正直に言って謝ろう……――
と思っていた。
やがて昼食になり、厚志が一階の食堂に降りてみると、宏は嬉しそうにオムライスを食べていて、自分の席の前にも、オムライスがあった。
ムッとした厚志がキッチンに向かうと、自分の分のオムライスを持ったミズキと会った。
「おいおい、私の昼飯は、普通の飯と味噌汁と……」
「あー、ごめんなさい。今日は宏の誕生日で、夕食はファミレスの予定だったから、オムライスしか作ってないのよ。たまには洋食のお昼もいいでしょう?」
厚志はシブシブ、オムライスを食べながら、
――味噌汁と漬物……が、オレの定番昼食なんだがな……――
しかし、本当に嬉しそうに食べる宏を見ていると、
「どうだ、ママのオムライスは美味しいか?」
「ん。すっごく美味しいよー!」
「そうか、全部ちゃんと食べるんだぞ」
隣で食べてるミズキも、ホッとした笑顔で見ていた。
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