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忘却の夜
すでにもう日は沈んだ。僕は廃遊園地に戻っていた。一日目の作業を終えた解体業者は撤収し、黒とオレンジの壁が無言で立ちふさがる。それでも中に何とか入ろうと僕は抜け道を探した。僅かばかりだが小さな隙間があり、僕は身を縮めて中に入り込む。
中は変わり果てた有様だった。コーヒーカップは手つかずだったが、観覧車と展望台は既に取り壊され跡形もなかった。何もない頂上に木枯らしがいやらしく吹き付ける。その中にかすかにかえでの髪の匂いが混じっているのを僕ははっきりと感じた。
「かえで?」
縋るように呼ぶと、
「……コウくん?」
とコーヒーカップの裏から声が聞こえた。僕はすぐさま回り込んむ。
かえでは昨日と同じ格好でそこに座っていた。スニーカーの爪先をすり合わせ、スカートの膝皿をすり合せながら、コーヒーカップの運転台にもたれ泣いていた。
「遅いよ……」
かえでは昨日と同じセリフを吐いた。しかしそれは涙で濡れていた。
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