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そうして螺旋階段の展望台へと向かった。寂れた遊園地の寂れた真ん中へ、ちっぽけな裏山のちっぽけな頂上へと向かった。階段の一段目を踏むと籠った高い音がして静寂が解かれた。
でしゃばりすぎた展望台は風雨に晒され、色がはげ落ちていた。初めて来た時、手すりに手をかけたことがあったが、剥げ落ちた色が掌に絡み付いてきたため、それ以来触れていない。そもそも手すりを使わずとも登れる。なんてことない螺旋階段だ。静寂への配慮も二段目からはいらなかった。籠った高い音をリズミカルに響かせながら進んだ。僕はこの瞬間が好きだ。忘れ去られた高台から、忘れ去った街に向かって、鐘を鳴らしている気がして心地がいい。
階段は二周ほど渦を巻いていた。二周半回った頃には街を見渡せる高さになった。頂上に着けば鐘は鳴り止む。この場所には人っ子一人こない。そう思っていた――。
渦巻いた螺旋の終わりへと登りきった時、彼女は既にそこに座っていた。白の薄汚れたスニーカーの爪先をすり合わせ、橙に薄汚れたスカートの膝皿をすり合せながら、身を縮めるようにしてそこに。彼女は夕日を見ていた。泣いているようにも見えた。
「遅いよ……」
木枯らしの合間を探していた僕に、木枯らしの中彼女は言った。
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